「女御様、衣をお持ちいたしました。」
女房が美しい衣を抱えながら部屋に入って来た。
「そう。じゃぁ柚聖、脱いで。」
「は?」
柚聖はそう言って藤壺女御を見た。
「あの~、ここでですか?」
「そうよ。」
「あの・・1人にして貰えませんか?」
いくらなんでも、女達の前で衣を脱ぐことはできない。
「ああ、そうね。お前達、衝立を持っておいで。」
女房達が部屋の隅にある衝立を持ってきた。
「これで、恥ずかしくないでしょう?」
「は、はい・・」
柚聖は衝立の中に入ると、直衣を脱いで白の衣を纏っているだけの姿となった。
「緋袴をどうぞ。」
女房の手から渡された緋色の袴を穿くと、柚聖は衝立の中から出て来た。
「まぁ、髪を下ろして緋袴を穿いている姿を見ると、男の方だとは思えないわぁ。」
女御はそう言うと鈴を転がすような声で笑った。
「そう言われても余り嬉しくないんですけど・・」
「あらぁ、駄目よ、褒められたら素直に喜ばないと。」
「そうですわよ、御髪もお肌もお美しいのに。」
女御とその女房達は勝手に盛り上がり、いつの間にか化粧道具を出していた。
「肌の張りや艶が良いので、余り塗りたくらなくても良さそうですわね、女御様?」
「そうね。羨ましい限りだわ。」
女御はにっこりと笑いながら、柚聖を見た。
「お前達、柚聖の着替えを手伝って頂戴。男の衣と女の衣では、着付け方が全く違うんだから。」
「ええ。では柚聖様、失礼致します。」
女房はそう言うと、一枚の衣を柚聖の上に羽織らせた。
「これだけでもいいんじゃ・・」
「いいえ。まだ五枚くらい重ねませんと。」
「ええ~!」
柚聖は着付けの間、ぶつぶつと文句を言っていたが、女房達に弄られるがままになっていた。
「これで終わりですわ。」
唐衣の紐を絞めた女房が、そう言ってにっこりと柚聖に微笑んだ。
「はぁ・・やっと終わったぁ。」
全身に衣の重みを感じながら、柚聖は溜息を吐いて茵の上に座った。
真紅の唐衣の下には、白と緑、海老染めの衣を纏い、裳を付けた彼の姿は、どこからどう見てもどこかの貴族の姫君だった。
「この姿では、誰が見てもあなたのことを男の子だと言っても信じないわね。」
「そうですね・・蜜匡様と有爾(まさちか)は?」
「蜜匡様は後でお呼びするわ。あなたのお友達はまだ着替え中よ。」
「着替え中って、まさか・・」
「うふふ、そのまさかよ。」
数分後、女房に手をひかれながら、衣擦れの音を立てた有爾が柚聖の前に現れた。
「ま、有爾・・」
そこには、紅の衣を纏った有爾が、じっと柚聖を見た。
「一度こういう格好してみようかなぁと思ったんだけど、似合う?」
「うん。僕なんかよりもずっと。気品があるっていうか、何ていうか・・」
「ありがとう、嬉しいよ。」
有爾はそう言うと、にっこりと笑った。
「もう着替えは済みましたか?」
御簾の向こうから、蜜匡の声が聞こえた。
「ええ、もう着替えは済みましたわ。とくとご自分の目でお2人のお姿をご覧遊ばせ。」
女御は御簾を捲ると、蜜匡に向かってにっこりと笑った。
「これは・・美しい・・」
柚聖と有爾の女装姿の美しさに、蜜匡は暫く声が出なかった。
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Last updated
2012年11月13日 23時18分13秒
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