歳三が河原で轟音を聞いた時、山本覚馬をはじめとする会津藩兵達が警護している蛤御門に、長州藩兵が攻め込んできた。
「御所を通ることは罷りならん!」
「鉄砲隊、前へ!」
馬上に居る指揮官と思しき藩士の指示で、長州藩兵達が洋式銃を構えた。
「あいつら、御所に鉄砲向ける気だ・・」
「全く恐れを知らねぇ奴らだ、俺らで迎え撃つべ!」
もはや御所に対して発砲する事もいとわぬ長州藩の狼藉ぶりに山本達は怒り、広沢も宙周藩兵達を睨みつけた。
「槍隊、前へ~!」
「放て、撃てぇ!」
会津藩兵達が長州藩勢の方へと突進してきたが、彼らの槍の穂先が向こうへと届く前に、彼は長州藩の鉄砲隊の前に悉(ことごと)く倒れ伏した。
「これじゃぁ埒が明かねぇ、鉄砲隊、前へ!」
山本が率いる鉄砲隊が槍隊と入れ替わるようにして前に進み、一斉に長州藩勢に向かって射撃した。
「怯むな、撃てぇ!」
山本は敵の銃弾を素早く避けながら、指揮官の男の足を撃った。
「今だ、突っ込めぇ!」
指揮官が倒れ、敵が相好を崩したのを見計らった会津藩兵が長州藩勢を押すと、彼らは逃げるように退却していった。
「一旦中へ入るべ。」
会津藩兵は一旦門の中へと退くことにした。
「ねぇ土方さん、あそこに居るの、長州の奴らじゃないですか?」
総司が走りながら向こうの角に見える鎧姿の男達を指すと、歳三はゆっくりと彼らの方へと近づいていった。
「てめぇら、何もんだ!?」
「会津中将様お預かり、新選組である!」
「新選組じゃと?」
「池田屋の仇、ここで討っちゃる!」
会津藩・桑名藩、そして新選組と激戦の末、長州藩は大敗を喫して京から退却していった。
その際鷹司邸に放たれた火が強風に乗り、千年王城の都を一瞬にして灰燼(かいじん)と化した。
煤で顔を汚した町民たちは、都を焼いた会津藩と新選組に対して憎悪の視線と怨嗟の言葉をぶつけてきた。
「鬼め、この人殺し!」
「早う京から去ね!」
「この人殺し!」
都を長州から守ったとはいえ、その代償は余りにも大きかったのである。
「なぁ総司、一体俺達は何の為に戦っているんだろうな。」
「何を言ってるんですか、土方さんらしくないですよ。」
辺り一面灰燼と化した都を歩きながら歳三が弱音を吐くと、すかさず総司が憎まれ口を叩いてきた。
「あ~あ、折角好き放題に暴れたっていうのに、土方さんがそんなんじゃぁ戦った甲斐がないなぁ。」
「てめぇ・・」
「あはは、怒ったぁ。それでこそ鬼副長ですよぉ。」
「うるせぇ!」
歳三は総司の挑発にいとも簡単に乗ってしまい、拳を振り回しながら彼を追いかけ回した。
「それじゃぁ、行って来る。」
「気を付けてくださいねぇ。あ、もう戻って来なくてもいいですよ?」
禁門の変からいくばくか経たぬ内に、歳三は勇達とともに隊士を募る為江戸へと向かった。
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