「何じゃ、あの伊東ちゅう者は、怪しい奴じゃのう。」
龍馬はボリボリと尻を掻きながら、そう言って桂を見た。
「あの人は必ずや我々の力になってくれると、僕は信じているよ。」
「そうかえ。わしゃ、あいつのことがどうも好かんぜよ。」
龍馬はそう言うと、欠伸をした。
「副長、斎藤です。」
「どうだった?」
「どうやら伊東は、土佐の坂本龍馬という男と会ったようです。」
「坂本龍馬といやぁ、確か薩長同盟に一役買ったって奴か?何者なんだ、そいつはぁ?」
「それが、土佐の脱藩浪士という情報しかわかりません。」
「そうか・・監察方に暫くその坂本って奴の身辺を探れと命じておくか。それよりも、お前は本当に行くのか?」
「ええ・・」
この頃、伊東は近藤達と一線を画し、新選組を脱隊し新しい組織を作ろうとしているという情報を歳三は得ていた。
そのメンバーの中に、平助と斎藤、そして永倉の名があった。
「あの永倉が、伊東派に与するたぁ・・やっぱり、山南さんの事が原因なんだろうか?」
「それはわかりません。以前から、永倉さんは新選組の在り方に疑問を持っているようでした。」
「まぁ、俺が説得して引き留めたのはいいが・・どうなることやら。」
問題が山積みで、歳三は思わず溜息を吐いた。
「伊東のことは任せたぞ、斎藤。」
「承知しました。」
斎藤はそう言うと、歳三に頭を下げた。
「聞いたか?伊東先生が新選組から脱隊するそうだ!」
「そんな・・伊東先生は一体何を考えておられるのだろう?」
「さぁ・・」
伊東の脱隊について隊内に不穏な空気が流れる中、ゆきと双葉は伊東に呼び出され、彼の部屋へと向かった。
「伊東先生、入ります。」
「よく来てくれたね、吉田君・・松崎君も。」
「あの、わたし達に何の用でございますか?」
「隊内でわたしが新選組から脱隊し、新たな組織を作ろうという噂は二人とも聞いているね?」
「ええ・・それが何か?」
「その組織に、君達も加えようと思うんだが・・どうだろうか?」
「それは、お断りさせてください。わだすは、会津の為に戦っておりやすから・・」
「そうか、それは残念だ。松崎君、君はどうだい?」
「わだすも、お断りさせていただきやす。」
「まぁ、すぐには答えは出ないだろう。半月ほど時間をあげるから、ゆっくりと考えてくれたまえ。」
「では、失礼致します・・」
伊東の視線を背後で感じながら、ゆきと双葉は彼の部屋から辞した。
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