「女将さんは、相変わらずですか?」
「ええ。伯母は頑固な性格ですから、和美さんから絶縁を言い渡されて、ひくにひけなくなったんでしょう。」
「似た者同士だなぁ、二人とも。和美ちゃんは和美ちゃんで一度決めた事は最後までやり遂げるところがあるし、白黒はっきりつけたがるし・・その所為で、学校では余り友達が居なかったみたいだけど。」
残暑が和らいだある日の昼下がり、華凛は槇とともに中庭を眺めながら、ロールケーキを食べていた。
「和美ちゃん、いじめられていたんですか?」
「いじめとか、そういう問題じゃないと思う。あの子はね、思う事をはっきりと言うタイプだから、人に嫌われやすいというか、誤解されやすいんだよ。」
「槇さん、よくご存知なんですね、和美ちゃんの事。わたし、今までそんな事知らなかった・・」
「まぁ、ここで下宿を始めた時、和美ちゃんはまだ幼稚園に上がるか上がらないかの年齢だったからね。彼女の父親代わりみたいなものかな、僕は。」
槇はそう言うと、前髪をかきあげた。
「それよりも華凛さん、就職活動は上手くいってる?」
「ええ。もう大手企業から内定を貰いました。」
「そうか、でも安心しちゃ駄目だよ。今じゃ大企業でも簡単に潰れてしまうほどの不景気だからね。何処の会社も安定しているとはいえないよ。」
「そうですね。この前も、大手企業が倒産しましたもんね・・」
「華凛さん、卒論の方はもう出来たの?」
「ええ、あと数ページで終わります。」
「優秀だね、君は。僕の兄貴の子が君と同じ大学に通っているんだが、そいつは楽する事ばかり考えて、他人のノートを平気でコピーして単位を取ろうとする奴だから、今じゃ誰もそいつにノートを貸さないんだ。その所為でそいつは留年決定だけどね。」
槇の話を聞きながら、華凛の脳裏に安達の顔が浮かんだ。
「まぁ、当然でしょうね・・」
「華凛さん、もしかしてそいつのこと知ってるの?」
「ええ。彼と同じ講義を取ってます。初めて会った時、彼わたしにノートを貸せと言って来たんです。その時は、キッパリと断りました。」
「まぁ、あいつがどうなろうと知ったこっちゃない。兄貴の息子でわたしには甥にあたるけど、今まで一度も会った事がないからね。」
「槇さん、ご家族はどちらに?」
「東京に住んでるよ、両親も兄貴も。兄貴は嫁さんの両親と同居していて、兄貴の子ども達は一度もわたしの実家に遊びに来た事がないよ。まぁ、嫁さんはわたしの母親と会うのを嫌がっていたからね。」
「嫁姑問題ですか?」
「まぁ、ひとことで言えばそうなるね。けど、母は兄貴の嫁さんに意地悪をしたことも、嫌味を一度も言ったこともないから、何故自分を嫌うのかわからなかったって。嫁さんは、母にいつも監視されていると兄貴に訴えたそうだよ。」
「色々とあるんですね、女同士って・・」
「そうだね。特に子どものことが絡むと、複雑になるね。和美ちゃんは向こうのお母さんと仲が良いようだけど、子どもが生まれたら変わるかもしれないよ、その関係が。」
「子育ての常識って、時代で変わりますもんね。」
「まぁ、和美ちゃんと女将さんが絶縁したとしても、それは仕方がない事なんじゃないかな?女将さんは、和美ちゃんに厳しすぎたんだ。」
「伯母が、ですか?」
「自分が言ったことは絶対に正しくて、相手の言い分を聞こうともしない。これから、どうするのかは彼女達次第だよ。」
「つまりわたし達には、出る幕はないということですか?」
「そうだね・・」
槇はそう言うと、すっかり冷めてしまった紅茶を一口飲んだ。
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Last updated
2013年09月10日 07時13分04秒
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