バーでの一件から数日後、ある週刊誌の表紙を、華凛と高史の写真が飾った。
その写真は、酔い潰れている高史を優しく介抱している華凛の姿を映したもので、見出しには、“鈴久高史、ホテルのバーで泥酔。元恋人が優しく介抱”と書かれていた。
「やっぱりね・・こうなるとは思っていたんだが・・」
「あの時、カメラのフィルムを鋏で切り刻んだのに・・」
「最近はデジカメにデーターを残す人が多いからね。そういう人は大抵、フィルムが破損した時に備えて、SDカードにバックアップを取ってあるんだ。」
「槇さん、これからどうすれば・・」
「今はただ、嵐が過ぎ去るのを耐えるしかないと思うよ。」
華凛は週刊誌をゴミ箱に捨てた。
2018年も残りあと僅かとなった頃、華凛がバイト先の弁当屋に向かうと、その前に彼を待ち伏せしていたマスコミが瞬く間に彼を取り囲んだ。
「高史さんとはまだ続いておられるのですか!?」
「パパラッチに暴行を働いたと聞いておりますが!?」
「どうか一言、コメントを・・」
華凛は彼らに対して沈黙を貫き、弁当屋の中へと入っていった。
「正英君、ちょっと。」
「はい・・」
店長に呼び出され、事務室に入って来た華凛は、そこで彼から店を辞めて欲しいと言われた。
「最近、マスコミがこの辺りをうろつくようになって、他のお客さんやスタッフの迷惑になっているんだ。勿論、今回の事は君の所為じゃないと思っているんだが・・」
「わかりました。」
「済まないね、こんな形で辞めて貰う事になるなんて・・」
「いえ・・店長には、色々とお世話になりました。」
「今まで君が働いて来た分の給料は、ちゃんと支払うからね。」
「制服はちゃんとクリーニングに出して返します。」
何度も自分に対して平謝りする店長に向かって、華凛はそう言うと事務室から出て行った。
更衣室のロッカーから制服を取り出し、紙袋に入れて華凛が店の裏口から外へと出ると、マスコミの姿はそこにはなかった。
「ただいま。」
「お帰りなさい、華凛さん。それ、バイト先の制服だよね?」
「ええ。今回の事でお客様や他のスタッフに迷惑がかかるから、辞めて欲しいと店長に言われました。」
「そうですか・・君に責任がないとはいえ、辛いね。」
「いいえ、あの時、わたしは少しやり過ぎたと反省しています。無断で写真を撮っているパパラッチを、店員さんに摘みだすようお願いしたことも出来た筈なのに・・」
「まぁ、過ぎた事を後悔しても仕方がないよ。それよりも、大変なのはこれからだね。」
槇はそう言うと、真那美の部屋へと向かった。
「真那美ちゃん、居る?」
「槇さん、どうしたんですか?」
「真那美ちゃん、これから知らない人が家に上がろうとするかもしれないから、そういう人が来たら断るんだよ、いいね?」
「はい。あの、槇さん・・」
「どうしたの?」
「あの子・・母親が浮気して出来た子どもだって、本当ですか?」
「どうして僕に、そんなことを聞くのかな?」
そう真那美に言った槇は、とても怖い顔をしていた。
「誰に、そんな事を聞いたの?」
「今日、学校に行ったら・・先生達がそんなことを噂していて・・」
「真那美ちゃん、ちょっと来なさい。」
槇はニッコリと真那美に微笑むと、彼女の手を引いて聖愛学園へと向かった。
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Last updated
2013年09月12日 22時21分11秒
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