横浜ベイホテル内にあるフレンチレストランで、知幸がそう言ってセーラに謝ると、彼女は苦笑して知幸の手を握った。
「お前があの時助けてくれなければ、こうして食事をする事も出来なかったんだ。」
「俺、足手纏いじゃないか?」
「またあの日下部っていう奴にイビられたのか?」
「うん、まぁ・・」
「あんな奴、気にしなくてもいい。」
グラスに入れられたミネラルウォーターを一口飲むと、知幸は前から気になっていたことをセーラにぶつけてみた。
「君の旦那さん・・リヒャルトさんって、日下部さんに辛く当たっているようだけど、何かあったの?」
「リヒャルトは前にも話したように杓子定規でクソ真面目で、融通が利かない男でね。自分のルールに外れたことをしている人間がどうしても許せないんだそうだ。」
「それが、日下部さんだったってこと?でも日下部さんは、リヒャルトさんと同じような性格だと思うけど?」
「まぁ、それもあるんだろうさ。いわゆる同族嫌悪ってやつだな。」
セーラがそう言って知幸を見た時、店員が前菜の料理を二人のテーブルへと運んできた。
「ワインは如何なさいますか?今夜はボルドー産のものが手に入りましたので・・」
「じゃぁ、その白を頼む。知幸、お前は?」
「俺も同じもので。」
「かしこまりました。」
前菜の料理をナイフとフォークで細かく一口大に切り、知幸がそれを口の中に放り込むとセーラがくすくすと笑いながら彼を見た。
「どうした?」
「いや・・さっきまで緊張していた癖に、食べ物を目にした途端いつものお前に戻ったなと思って・・」
「だってさ、お前と俺は確かに警察学校の同期で、一緒に築地署で働いて来た仲間だったけど、今は身分が天と地ほどの違いがあるじゃないか?」
「昔の仲間に気を遣わせるほど、皇太子という身分は煩わしいものだな・・」
セーラはそう言って溜息を吐くと、前菜の料理を平らげた。
「今はスーパーマーケットへ買い物に行くにも誰かの許可を得なくてはいけないし、一人で大丈夫だと言っているのに外出する時にはいつも数人の護衛がつく。その所為で目立ってしょうがない。」
皇太子となったセーラは、皇族となった代わりに自由を奪われてしまったようで、食事の間中、そんなことを知幸に愚痴っていた。
「セーラ、今日は食事に誘ってくれてありがとう。」
「いい気晴らしになっただろう?」
「ああ。」
「今度はリヒャルトと三人で食事しよう。あいつは自分以外の男と食事に行った事を知ると、嫉妬に狂うからな。」
「そんなに嫉妬深いのか、旦那さん?」
「ああ。それじゃぁ、またな。」
「う、うん・・」
レストランの前でセーラと別れた知幸は、ホテルを出て駅へと向かった。
クリスマスシーズン真っ只中とあってか、みなとみらいにはカップルの姿が目立った。
(なんだかんだ文句を言っていても、セーラは旦那さんと上手くいっているようだなぁ・・)
知幸がそんな事を思いながらホームで電車を待っていると、突然スーツの胸ポケットに入れていた携帯が鳴った。
にほんブログ村