高史から衝撃的な告白を聞いた真那美は、その数日後に久しぶりに華凛と会えるというのに、ちっとも嬉しくなかった。
「まだ、悩んでいるの?」
「ええ・・」
「あのね真那美ちゃん、自分が嫌だと思っている気持ちは必ず相手に伝わってしまうよ。君も舞妓として正式にデビューして、これから色々な方とお付き合いしなくてはいけないんだから、ネガティブな気持ちは隠す努力をしないとね。」
「そうですね。」
槇の心強いアドバイスを受け、真那美は華凛との待ち合わせ場所であるJR京都駅前にあるホテルグランヴィア京都のカフェルームへと来ていた。
「真那美、久しぶりだね。」
「叔父様、お久しぶりです。」
「店出ししてあれから数日経つけど、どう?仕事にはもう慣れた?」
「ええ。ただ学校とお座敷を両立するのは難しいです。置屋のおかあさんは、わたしがまだ学生だから週末だけお座敷に出たらいいとおっしゃってくださいましたが、これからの季節になると、そうはいきません。」
「そうだね。12月になると年末年始の忘年会シーズンで忙しくなるだろうし・・」
「丁度冬休みなので、学校の事を気にしないで済むのでいいんですけど・・」
真那美はそう言って言葉を濁すと、華凛を見た。
「どうしたの?」
「実はわたし、学校で担任の先生に、“高等部に進学する気がないのに、いつまでこの学園に居るんだ”と言われてしまって・・何だか、悔しくて堪らないんです。」
「その先生は、自分の考えだけが正しいと思っているようだね。そんな人の言う事など気にするな。」
華凛は真那美の手を優しく握ると、彼女に微笑んだ。
「叔父様、ひとつ聞きたい事があります。」
「何?」
「叔父様と鈴久高史様は、昔恋人同士だったんですか?わたし、数日前に高史様から叔父様との関係を告白されたんです。」
「そうか。」
華凛は真那美の言葉を聞いて溜息を吐くと、ネクタイを緩めてユニコーンを象ったルビーのネックレスを取り出した。
「これ・・」
「なかなか捨てられなくてね。今はもう別れてしまったけれど、あの人から貰った大切なプレゼントだから・・」
そう言った叔父の横顔は、何処か寂しそうに見えた。
「また、京都に来て下さいね。」
「ああ。次に会う時は正月かな?」
「さぁ、どうでしょう?正月三箇日もスケジュールが沢山詰まっていると、おかあさんから言われましたから・・」
「最近寒くなってきたようだから、風邪をひかないようにしなさい。」
「わかりました。」
数分後、真那美は東京へと戻る華凛にそう言うと、彼が乗った新幹線がホームを離れるのを見て華凛に手を振った。
幼い頃はいつも自分の側に居て、たまには小言を言われてうんざりしていたが、華凛が東京に行ってしまい、彼と離ればなれになった途端に彼の存在の大きさを真那美は改めて思い知らされた。
過去に高史と恋人同士であろうと、華凛はもうその過去を忘れ、前を向いて歩こうとしている。
「ただいま。」
「どうだった、華凛さんとは?」
「槇さん、もう叔父様は高史様との事を忘れています。だから、わたしも過去の事をもう二人に言いませんし、悩みません。」
「そうか・・」
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Last updated
2013.09.26 12:58:38
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