イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「千尋、学校で怪我したって本当か!?」
「義兄様、学校まで迎えに来て下さったの?」
放課後、千尋と千華が校門から外へと出ようとした時、二人の前に一台の車が停まり、その中から歳三が降りて来た。
「お前の帰りが遅いから、気になって迎えに来たんだ。」
「ごめんなさい義兄様、家に連絡するべきでしたわね。」
「じゃぁ千尋さん、わたしはここで失礼するわ。」
「千華さん、今日はありがとう。さようなら。」
「ええ、また明日ね。」
千華と校門の前で別れた千尋は、歳三が運転する車の助手席に乗り込んだ。
「お前、そんな事を同級生に言ったのか・・」
「ええ、だって本当の事だもの。」
自宅へと向かう車の中で、千尋は今日学校で起きた事を歳三に話した。
「お前なぁ、いくら本当の事だといっても、それを相手に言うのは駄目だろうが?」
「千華さんも、義兄様と同じことをおっしゃっていたわ。一体わたしの何処がいけなかったの?」
「お前ぇは相手に本当の事を言ってよかったと思っているんだろうが、向こうは公衆の面前でお前に侮辱されたって感じたんじゃねぇのか?」
「あ・・」
歳三の言葉を聞いた千尋は、自分に憎悪に満ちた視線を送る同級生の姿が脳裏に甦った。
「千尋、言葉ってもんは、良く考えて口に出すものなんだよ。たとえ本当の事だからって、すぐに相手にそれを伝えちゃならねぇよ。」
「わかりました・・」
「右手の怪我は、どうだ?」
「千華さんに湿布を貼って貰ったから、少しは良くなったわ。」
「そうか。」
帰宅した歳三と千尋は、母屋の玄関に女物のハイヒールが置かれていることに気づいた。
「誰か、お客様がいらしているのかしら?」
「さぁ・・」
「あら歳三、やっと帰って来たのね!」
客間からドレスで着飾った怜子が出て来たかと思うと、彼女はそう言って歳三に笑顔を浮かべた。
「今、紗江子(さえこ)様がいらしているのよ。」
「紗江ちゃんが?」
「あなたにご挨拶したいって、フランスから帰国したばかりなのにうちに寄ってくださったのよ。歳三、そんな所で突っ立ってないで、さっさと客間に入りなさい!」
怜子は歳三の手を掴むと、そのまま客間の中へと戻った。
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
「ただいま。睦ちゃん、今日は早く休むから、お風呂沸かして頂戴。」
「かしこまりました。」
千尋は客間の前を通り過ぎると、中庭を通って離れへと向かった。
「お久しぶりですわね、歳三様。」
「久しぶりだな、紗江ちゃん。」
歳三が怜子とともに客間に入ると、そこにはペンシル・ラインの深緑のドレスを上品に着こなした松本男爵家の娘・紗江子がチンツ張りの椅子に座っていた。
彼女はデザイナーを志し、パリに4年間留学していた。
「長旅で疲れているのに、うちに寄ってくれて有難う。」
「暫く会わない内に男前になりましたわね、歳三様。」
「お前こそ、暫く会わない内に良い女になったな、紗江ちゃん。」
「ふふ、歳三様にそう言っていただけると嬉しいわ。」
紗江子はそう言うと、歳三に微笑んだ。
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