イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「千穂、やめて、やめて頂戴!」
紗江子が慌てて暴れる千穂の手足を押さえつけようとしたが、彼女はますます暴れて泣き叫ぶばかりだった。
「まぁ、一体千穂ちゃんはどうしてしまったの?」
「わかりません、わたくしがこの子から積み木を取り上げたら、急に暴れ出して・・」
歳三はそっと暴れる千穂に近づくと、彼女の手に積み木を握らせた。
すると千穂は泣き止み、歳三に抱きついて来た。
「紗江子、今日は千穂と一緒に寝てもいいか?」
「ええ、構いませんわ。」
歳三は眠ってしまった千穂を抱き上げると、子ども部屋から出て行った。
「ねぇ紗江子さん、千穂ちゃんは今まであんな事をしたことがあったの?」
「いいえ、あの子があんなに暴れたのは今回が初めてですわ。一体どうしてしまったのでしょう?」
「一度病院で診て貰った方がいいんじゃないの?何か恐ろしい病気かもしれないわよ。」
怜子は初孫である千穂の奇行を目の当たりにして、少しショックを受けていた。
その日の夜、歳三がベッドの中で寝返りを打とうとした時、彼は自分の隣に寝ていた千穂が自分の胸に顔を埋めて寝ている事に気づいた。
歳三はそっと千穂の頭を撫で、彼女を抱きしめて寝た。
「おはよう、歳三。昨夜は良く眠れて?」
「ええ。」
「それにしても驚いたわ、千穂ちゃんがあんなに暴れるなんて・・」
「今日、千穂を病院に連れて行くつもりです。」
「そうなさい。病気は早期発見が大事だというものね。」
ダイニングで歳三と怜子がそんな話をしている間、千穂はぐるぐるとテーブルの周りを走りまわっていた。
「何だか落ち着きがない子ねぇ・・これじゃぁ、嫁の貰い手がなくなってしまうわ。」
「千穂はまだ三つだよ、母さん。」
「まだ一言も千穂ちゃんが話していないっていうのも気になるわぁ。」
「申し訳ありません、お義母様。」
発達の遅れを怜子から指摘され、紗江子は千穂が未だに言葉を話せないのが自分の責任のように感じてしまった。
「あら、あなたを責めている訳ではないのよ。」
朝食の後、歳三が寝室で身支度をしていると、子ども部屋から千穂の泣き叫ぶ声が聞こえた。
「どうした?」
「この子、ワンピースを着せようとしても嫌がるんです。」
「千穂にズボンを穿かせたらどうだ?昨日穿いていたやつと同じものを穿かせてやればいい。」
「わかりました。」
紗江子が箪笥から千穂が昨日着ていた黒のズボンと、赤い格子柄のシャツを取り出すと、千穂は嬉々とした様子でパジャマを脱いでシャツとズボンに着替えた。
「やっぱりお義母様がおっしゃられているように、千穂は何か恐ろしい病気に罹っているんじゃないかしら?」
着替えを済ませた千穂は、歳三に笑顔を浮かべながら彼に抱きついて来た。
車の中で、千穂は病院に着くまで窓の外の景色を眺めていた。
「先生、うちの娘は何か恐ろしい病気に罹っているんでしょうか?このままだと、この子の将来が不安で仕方がありません。」
「安心してください、お母さん。娘さんは恐ろしい病気になど罹っておりませんよ。」
「でも・・」
「先程からあなた方のお話を聞いていると、どうやら娘さんは自閉症の可能性が高いようですね。」
「自閉症・・先生、うちの子が、自閉症だというのは本当ですか?言葉の遅れが出ているのも、自閉症の所為なのですか?」
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