表紙素材は、
このはな様からお借りしました。
「黒執事」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
―坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ。
誰かが、自分の耳元で優しく囁く声。
目を開けると、そこには何の変哲もない自分の部屋。
「いつまで寝ているんだい!」
「すいません・・」
「まったく、義姉さんは何だってこんな穀潰しを・・」
ブツブツと小声で自分の陰口を叩く遠縁の伯母の声を背に受けながら、シエルは家から出て行った。
―ほら、あれ・・
―山田さんのところの・・
学校へと向かう道すがら、通行人達が好奇の視線をシエルに送った。
三年前、両親と双子の兄を交通事故で亡くし、シエルは、遠縁の親族の元に引き取られた。
華族の令嬢として何不自由なく生きていたシエルは、今の家では使用人同然の生活を送っている。
唯一の救いは、伯母の“お情け”で学校に通わせて貰っている事だった。
学校といっても、シエルが入学した時に戦争が始まり、授業らしい授業は何もなかった。
「鬼っ子!」
「早くこの町から出て行け!」
家でも学校でも、シエルは独りだった。
少し青みがかったダークシルバーの髪、雪のように白い肌、紫と蒼い瞳を持ったシエルは、周囲から浮いていた。
病弱な上に良く熱を出して寝込んでいたシエルは、勤労奉仕も満足に出来ない所為で同級生達から疎まれていた。
(僕は、独りだ。)
―坊ちゃん。
風に乗って、懐かしい声が聞こえて来た。
あれは、一体誰の声なのだろう。
何処かで、聞いたことがあるような声。
「おいそこ、手が止まっているぞ!」
「す、すいません・・」
「全く、この穀潰しが・・」
縫製工場での勤務を終えたシエルは、額の汗を拭いながら、工場から家へと向かった。
すると、上空で轟音が響き、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。
「敵機襲来、待避~!」
人々の悲鳴や怒号、そして機銃掃射の銃声が響いた。
防空壕に逃げ込もうとしたシエルだったが、そこは既に人がひしめいていて入れなかった。
逃げ場をなくしたシエルは、近くの木の下に隠れた。
その直後、バリバリという音と共に、銃弾の雨が容赦なく降り注いだ。
シエルが両手で耳を塞ぎ、身体を丸めていると、誰かが自分を抱き寄せる感覚がした。
―坊ちゃん。
「あぁ、やっと見つけましたよ、坊っちゃん。」
俯いていた顔をシエルが上げると、そこには一人の青年の姿があった。
射干玉のような艶やかな黒髪、美しい紅茶色の瞳をした青年は、シエルを見て優しく微笑んだ。
「セバスチャン・・」
シエルは、そう言うと気を失った。
「傷は浅いですね。銃弾が後数センチずれていたら、死んでいましたね。」
シエルが目を開けると、そこは診療所と思しきベッドの上だった。
「ん・・」
「目が覚めましたか?」
「ここは?」
「遠縁の伯父が経営している診療所ですよ。あなたは怪我をしていたので、こちらに運びました。」
「ありがとうございます。」
シエルが青年に礼を言ってベッドから起き上がろうとすると、右足に鋭い痛みが走った。
「まだ動いてはいけませんよ。あなたはあの時、右足を骨折していたのですよ。ここで暫く休んでいなさい。」
青年はそう言うと、シエルに微笑んだ。
―坊ちゃん。
「あなた、お名前は?」
「シエル・・シエル=ファントムハイヴ・・」
「確か、山田旅館に引き取られた子ですね?わたしは、セバスチャン=ミカエリス。」
その名を聞いた時、シエルの目から自然と涙が流れていた。
(あぁ、やっと会えた・・)
シエルが溢れ出る涙を必死に手の甲で拭おうとした時、青年がそっとレースのハンカチでシエルの涙を拭ってくれた。
「泣かないで、坊っちゃん。こうしてまた、会えたのですから。」
「あぁ、そうだな・・」
シエルとセバスチャンは、暫く抱き合っていた。
「セバスチャンは、どうしてこの町に?」
「伯父が亡くなりましてね。遺言状にこの診療所をわたしに譲るとあったので、東京の病院を辞めてこの町に来たのですよ。」
「そうか・・」
「坊ちゃん・・もし良ければ、一緒に暮らしませんか?」
「え・・」
「今すぐ、という訳にはいきませんがね。今は、足の怪我を治して下さいね。」
「わかった。」
こうして、シエルとセバスチャンの、奇妙な同居生活が始まった。
「へぇ、あの子がねぇ・・」
「どうしますか、女将さん?」
「別にいいんじゃないの、あの子が向こうで暮らしたいって言えば、勝手に暮らせばいいのよ。」
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