「僕に聞きたいことって、何ですか?」
「お前・・実の母親に連絡を取った事はあるか?」
「いいえ。僕、あの人とはもう親子でも何でもありません。それが、どうかしたんですか、先生?」
「実はな、昨日俺の家にお前の実の母親から電話があったんだよ。」
「えっ・・」
千尋が驚愕の表情を浮かべるのを見た歳三は、内心臍を噛んだ。
「嫌がらせが今後も続くようなら、警察に言おうと思っているんだが・・」
「好きにして下さって結構です。僕は、あの人とは何も関係がありませんから。」
「そうか。」
「先生、お昼まだですか?お弁当、作ってきたんですけど・・」
「ありがとう。」
千尋は歳三の言葉を聞いて嬉しそうに笑うと、鞄から弁当箱を取り出した。
「美味そうな弁当だな・・いつもこれ、お前が作っているのか?」
「ええ。中学の時から、自分の弁当は自分で作っています。母から“今時の男の子は家事が出来ないと駄目だ”って言われているので・・」
「ふぅん、そうか。千尋、進路の事なんだが・・」
「まだ、決めていません。大学に進学するか、それとも就職するのか・・両親と話し合って、時間を掛けて自分で進路を決めたいと思います。」
「わかった。俺達が色々進路の事を言っても、最終的に決めるのはお前だからな。」
歳三はそう言うと、千尋が作ったミートボールを食べた。
「美味いな、これもお前の手作りか?」
「いいえ、冷凍食品です。いつもお弁当のおかずは全部手作りの物にしようと決めているんですけれど、時間がなくて・・」
「冷凍食品の方がいいさ。何も全部手作りのおかずに拘らなくてもいいんじゃないか?」
「そうですね。」
「料理教室には通っているのか?」
「いいえ、全て独学です。本屋でお弁当のレシピ本とかを買って、それを見ながら色々と作っています。最近では、お菓子作りにハマっています。」
「へぇ、そうか。」
「こんな事をしたら、先生の奥さんに悪いですよね・・」
千尋はそう言うと、俯いた。
「お前、まだ琴子の事気にしているのか?」
「ええ・・」
「あいつの言う事をいちいち真に受けるんじゃねぇよ。あいつは、お前に嫉妬しているだけなんだから。」
歳三はそう言って千尋を慰めると、彼の頭を撫でた。
「先生、それじゃぁまた。」
「ああ。」
昼休みが終わり、数学準備室から出た千尋が教室に戻ると、平助が一冊の週刊誌を持って千尋の元へ駆け寄ってきた。
「なぁ千尋、これお前の兄さんだろう?」
「うん・・」
平助に見せられた週刊誌のゴシップ記事には、真紀と若手俳優Sの熱愛疑惑が書かれていた。
「この記事に書かれてあること、本当なのかな?」
「嘘っぱちだよ、こんな記事。」
「だよなぁ。」
平助はそう言うと週刊誌を閉じて、それをゴミ箱に捨てた。
「なぁ千尋、今日の放課後カラオケにでも行かねぇ?」
「いいね。」
「おっしゃぁ!」
「平助、今日の練習サボるんじゃねぇぞ!」
「え~!」
「てめぇ、数学の宿題忘れた癖に練習サボる気か?」
歳三はそう言うと、平助を睨んだ。
「平助、頑張れ・・」
「あ~あ、俺一人だけ数学の補習受けるのかよ・・」
「荻野、お前も付き合え。」
「え、僕もですか?」
「ああ。まだお前には話があるからな。」
「わかりました。」
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