イラスト素材提供:White Board様
「おい、俺が国家叛逆罪で逮捕ってどういうことだ?」
「とぼけるな!貴様がこの封書を昨日内務省に届けたのはわかっておる!」
「封書?それは、女学校設立に対する政府への嘆願書のことか?」
「貴様、この期に及んでシラを切るつもりか!?」
取調室で刑事から尋問を受け、歳三は自分が出した覚えのない封書を突きつけられ、混乱した。
そこには、明治政府に対する檄文が書かれていた。
「俺は何もしてねぇ、俺は無実だ!」
「うるさい!」
尋問は、夜まで続いた。
「土方さん、ご主人が逮捕されたんですってね?」
「ええ。でも主人は無実だわ。」
「そうよ、あのご主人が国家叛逆なんて企てるわけないわ!」
千尋は歳三の身を案じながら、彼の無実を信じていた。
「土方さん、少しお話があるのだけれど、いいかしら?」
「ええ、いいですよ。」
昼休み、千尋は神田詩織に呼び出され、彼女とともに中庭に来ていた。
「わたくしにお話とは何かしら?」
「父から一度、あなたのご主人のことを聞いたわ。あなたのご主人は幕末の京で、鬼神のごとく剣を振るっていたんですってね?」
「ええ・・それがどうかしたの?」
「父は、あなたのご主人の傍にはいつも西洋の宗教画に出て来るような天使のように美しい少年が居たとか・・もしかしたら、それはあなたの事ではないかと思ってねぇ・・」
詩織はそう言うと、詮索めいた視線を千尋に送った。
「神崎さん、あなた一体何を言っているの?」
「土方さん、あなたはご主人と出会ったのは、京都だといったわよね?」
「ええ、そうだけど・・」
「そう・・わたくしは、そのことをあなたに聞きたかっただけなの。」
詩織はそう言って笑うと、千尋に背を向けて中庭から出て行った。
(一体神崎さんは、何を探ろうとしているのかしら?)
その日の夜、ベッドに寝転がりながら千尋が何故歳三に逮捕されてしまったのかを考えている時、ドアを誰かがノックした。
「どなた?」
「土方さん、わたくしよ、神崎よ。」
「神崎さん、どうぞお入りになって。」
「夜遅くに来てしまって申し訳ないわね。」
「いいえ。それよりも神崎さん、あなたにひとつ聞きたいことがあるの。」
「わたくしに聞きたいことって、何かしら?」
「確かあなたのお父様、内務省にお勤めよね?今朝主人が国家叛逆罪で逮捕されたのは、あなたのお父様のお力があるからではないのかと思って・・」
「そんな事、あるわけないでしょう。」
詩織は千尋の言葉を鼻で笑うと、部屋から出て行った。
(一体何なのかしら?)
詩織が何を考えているのかわからず、千尋は眠れぬ夜を過ごした。
「千尋様、少し顔色が悪いわよ?」
「昨夜、眠れなかったものだから・・」
「ご主人が逮捕されて大変だと思うけれど、無理しないでね?」
「ええ、わかっているわ・・」
千尋はそう言って香織に微笑むと、意識が次第に遠のいていくのを感じた。
「千尋様、大丈夫?」
「ここは・・」
「あなた、さっき教室で倒れたのよ。心労が祟ってしまったのでしょうね。」
香織はそう言うと、医務室のベッドで寝ている千尋の手を握った。
「ごめんなさい、迷惑を掛けてしまって。」
「謝らないで。ねぇ千尋様、ご主人早く千尋様の元に帰ってくるといいわね。」
「ええ・・」
(歳三様、どうかご無事で・・)
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