※BGMとともにお楽しみください。
「いきなり何を言っていやがる。俺達は何もそんなことは・・」
「微塵にも思っていないと言えるのか?まぁ、儂らのような武家の者に比べて、お前達は武士のふりをしている紛い物にすぎんからな。」
芹沢から侮辱され、歳三は怒りで頬を赤く染めた。
(こいつ、言わせておけば・・)
歳三が黙って芹沢を睨みつけていると、彼は歳三に臆することなく歳三を睨み返した。
「お前ともう話すことなどない、さっさとここから出て行け。」
「言われなくとも、出て行ってやるよ。」
歳三は座布団から立ち上がり、芹沢の部屋から出て行った。
「トシ、大丈夫か?」
「ああ。近藤さん、後で俺の部屋に来てくれねぇか?」
「わかった。」
八木邸に戻った歳三が溜息を吐きながら副長室に入ると、そこには自分の句集を読んでいる総司の姿があった。
「総司、勝手に俺の句集を読むんじゃねぇ!」
「減るもんじゃないんですから、いいでしょう?」
「良くねぇよ!」
歳三が総司から句集を奪い返そうとしたが、総司は歳三の脇をすり抜け、何処かに逃げて行ってしまった。
「ったく、あいつは俺に嫌がらせを毎日一回しねぇと済まねぇのかよ・・」
彼が溜息を吐きながら文机の前に腰を下ろそうとしたとき、文机に文が置かれていることに気づいた。
(何だ?)
歳三がその文を開くと、そこには総司の字で、“余り無理しないでくださいね。”とだけ書かれていた。
「馬鹿野郎、お前に心配されるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇよ。」
そう言った歳三は、口元に笑みを浮かべていた。
「荻野君、少しいいですか?」
「ええ、構いませんよ沖田先生。」
「じゃぁ、失礼しますね。」
千尋が大部屋で読書をしていると、そこへ総司がやって来た。
「沖田先生、それは?」
「ああ、これは土方さんの句集です。あの人、下手な俳句をここに書き溜めているんですよ。」
「そうなのですか・・少し、見ても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。」
総司がそう言って歳三の句集を千尋に見せようとしたとき、大部屋の襖が勢いよく開け放たれた。
「総司ぃ、やっと見つけたぞ!」
全身に殺気を漂わせた歳三は、鋭い眼光を光らせながら総司を睨みつけると、彼の手から句集を奪った。
「あの、副長はどうしてさっき怒っていらっしゃったのでしょうか?」
「土方さん、あの句集をわたしに奪われて大声でこの前朗読されたものだから、わたしになかなか句集を見せてくれないんですよ、酷いでしょう?」
「そんなことがあったんですか・・」
千尋は総司の話を聞きながら、何と答えたらいいのかわからずに、彼に愛想笑いを浮かべた。
その日の夜、喉が渇いた千尋が水を飲みに井戸へと向かうと、そこには昼間街中で見かけた謎めいた青年・貴助の姿があった。
「あなたは・・確か、貴助さんでしたね?一体どうして、このような場所に居られるのですか?」
千尋の問いに貴助は答えずに、いきなり千尋を抱き締めた。
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