「すいません、連絡もせずに突然押しかけちゃって・・」
「いえいえ、どうぞ。」
「それじゃあ、失礼いたします。」
歳三が自宅に如月を招き入れると、彼女はリビングに入ってすぐキッチンの流し台に溜まっている食器の山を見た。
「すいません、散らかっていて・・」
「もしよければ、わたしが洗いましょうか?」
「いいえ、お気遣いなく。」
歳三はそう言うと、流し台に溜まっている食器を洗い始めた。
「先生の奥さん、どちらにいらっしゃるんですか?」
「家内は実家に帰っています。何でも、高校の同窓会があるとかで・・」
「美砂ちゃんを家に置いて行ったんですか?信じられないですね。」
「あいつは俺が仕事で家を空けている時、俺が帰って来るまで美砂と二人きりだから、たまには息抜きをしたいんでしょう・・」
「でも、普通病気の赤ん坊を連れて行くでしょう?何だか、奥さんってお子さんに薄情なんですね。」
如月の言葉を聞いた歳三は、思わず食器を洗う手を止めた。
「すいません、わたし少し言い過ぎましたね。」
「いいえ、気にしていませんから。」
「美砂ちゃんの様子はどうですか?」
「熱が下がって、快方に向かっています。明日、見舞いに行こうと思っています。」
「そうですか。土方先生、何か困ったことがあったら言ってくださいね、力になりますから。」
「有難うございます。」
「それじゃぁ、わたしこれで失礼しますね。」
如月は歳三に頭を下げると、リビングから出て行った。
(一体如月先生は何をしに来たんだ?)
翌朝、歳三が出勤すると、職員室でパソコンに向かっていた如月が椅子から立ち上がり、彼に会釈した。
歳三が自分の席に座ってノートパソコンの電源を起動させていると、鞄の中にしまっていたスマートフォンがメールの着信を告げた。
『暫く実家でゆっくりとしています。帰って来るまで美砂の世話を宜しくお願いします 琴子』
妻からのメールを読んだ歳三は、それを返信せずに削除した。
娘が肺炎になって入院したというのに、同窓会に出席する方が大事なのだろうか。
普通なら、同窓会が終わった後すぐに帰って、娘の様子を見に病院に行くだろうに。
琴子は美砂の事が心配ではないのだろうか。
「土方先生、ちょっといいですか?」
「はい・・」
歳三がノートパソコンから顔を上げると、そこには宮下真紀の担任である眞岡信二が立っていた。
「宮下真紀の事で、先生にお話をしたいことがあるのですが・・今、宜しいでしょうか?」
「今は忙しいので、後で宜しいでしょうか?」
「そうですか。では昼休みに、化学室でお待ちしております。」
眞岡はそう言って歳三に頭を下げると、職員室から出て行った。
「土方先生、朝のHRに遅れますよ。」
「はい。」
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