「どういうこった? 吉崎とお前が恋人同士だって初耳だぜ。」
「もう終わったことさ。吉崎雄太は昔、俺らの仲間だった。あいつはぁ親に反抗して俺らのグループに入ったんだが、あいつの親が密かに俺らの事を調査してサツにチクリやがったのさ。」
「それで吉崎を切ったのか。八郎、そいつとはまだ連絡取っていやがるのか?」
「まぁな。」
八郎はそう言うと、歳三に一歩近づいた。
「歳、ひとつ忠告しておくぜ。総司とやらを本気で愛してるんなら、吉崎に気をつけるこった。あいつはぁ見かけの可愛さに寄らず、陰険な性格だからよ。」
「どういう意味だ、そいつはぁ?」
「自分で考えなぁ。」
八郎は歳三の肩を叩いて風呂場から去って行った。
その後歳三は、八郎の言葉の意味を何度も考えていた。
脳裡に、あの雄太の顔が浮かんだ。
一見すると裕福な家庭の、人が良さそうなお坊ちゃんだが、その本性が総司の話題になると少し垣間見えたような気がした。
あの時―面会に来た時、自分が欲しい物は他人の物でも奪うと言った時、こいつと関わると碌なことにはならないと歳三は直感で解った。
その厄介な少年が総司の親友として彼の傍に居るのだから、何かあっても遅くはない。
だが総司を助けようにも、身動きも取れない少年院の中ではどうする事も出来ない。
(畜生、何とかしねぇと総司が危ねぇ!)
恋人を助けられない無力な自分が、歯痒く思えてならなかった。
部屋に戻ると、歳三は総司が最近携帯を買ったという内容が書かれている手紙を探した。
その手紙は、いつも彼が手紙を保管している空箱の中にあった。
はやる気持ちを抑え、歳三は総司の携帯の番号が書かれてある便箋を封筒から取り出した。
「どうした、土方? もうすぐ作業の時間だぞ?」
部屋に1人残っている歳三に、吉田教官が声を掛けた。
彼は何かと歳三の事を気に掛けてくれており、総司との手紙の遣り取りを許可してくれたのも彼だった。
「吉田さん、済まねぇが、電話したいんだ。総司が・・あいつが危ねぇ!」
「そうか。じゃぁ5分間だけならいいぞ。」
「有難う。」
歳三は便箋を握り締めたまま、総司への携帯に電話を掛けた。
(頼む、出てくれ!)
「ごめん、ちょっと外に出るね。」
総司はそう言って雄太達に断ると、別荘から外へと出た。
「もしもし?」
『総司か? 今何処に居る?』
「軽井沢の、友達の別荘だけど・・どうしたの、歳三兄ちゃん?」
『今すぐ東京へ戻れ、総司! あいつは・・あの野郎は危険だ!』
「え、何を言ってるの?」
総司は突然歳三が怒鳴ったので、彼が何を伝えようとしているのかが解らなかった。
必死に彼の言葉を聞くことに集中していたので、総司は背後に迫って来る雄太達に気づかなかった。
『てめぇの親友は、てめぇを陥れようと軽井沢に誘き寄せたんだ!』
「そんな、嘘でしょう? 雄太はそんな事しな・・」
総司がそう言った時、何か光るものが頭上に見えた。
(何・・?)
ゆっくりと総司が振り向くと、そこには鉄パイプを持った雄太が立っていた。
「雄・・」
突然ガンッという鈍い衝撃音がした後、通話が切れた。
「おい、総司! どうしたんだ!」
歳三は悪寒が背筋を走るのを感じた。
「う・・」
雄太に殴られ、総司が地面に転がっている携帯を握り締めようとした時、誰かが総司の携帯を拾い上げた。
「済まない、沖田・・」
「先輩、どうして・・」
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最終更新日
2015年06月04日 23時05分33秒
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