※BGMと共にお楽しみください。
何がきっかけで、いじめが始まったのかは今でもわからない。
ただ言えるのは、毎日が生き地獄のようなものだった。
教室に入っても誰にも相手にされず、空気のように扱われていた。
たまに栗田達から暴力を受けていたが、学校でのいじめは、家庭内のそれよりもましだった。
家に帰っても、優秀な異父兄と可愛い異父弟の間に挟まれ、千はいつも気まずい思いをしていた。
何処にも、居場所がなかった。
「自分が帰って来る場所があるって感じられることが、初めてなんですよね。新選組の皆さんと知り合って、こうして一緒に暮らせることが、何だか嬉しくて・・」
「辛かっただろう、千。これからは俺達が居るからな!」
千の話を聞いた永倉は、そう叫ぶと彼に抱きついた。
「おうよ、俺達がお前の事を守ってやる!」
「何があっても、お前を見捨てたりはしねぇから、安心しろよ!」
「原田さん、永倉さん、藤堂さん・・」
千は涙で潤む瞳で、原田達を見つめた。
今まで、こんな温かい涙を流したことはなかった。
ひたすら感情を押し殺し、一人で居た。
その方が、楽だったから。
心の痛みに鈍感な振りをした方が、傷つかずに済んだから。
だが、新選組に出会えて、自分を必要としてくれる場所を見つけた。
自分の為に泣いて、怒ってくれる人達が居る。
だからもう、何も怖くない。
「皆さん、ありがとうございます。こんな事言って頂けたの、皆さんが初めてです。」
「泣くことねぇだろう。」
「そろそろ屯所に帰らないと土方さんの雷が落ちるぜ。」
「ああ、あの人門限にはうるさいからな。」
原田達と千が小料理屋から出て、西本願寺にある屯所へと戻ると、案の定門前では歳三が仁王立ちして彼らの帰りを待っていた。
「てめぇら、今まで何処をほっつき歩いていた!?」
「いやぁ、千を労う会を開いていたんだよな?」
「え、ええ・・」
「そうか。千、今日は疲れただろうから、部屋でゆっくりと休め。」
「はい。では失礼します。」
「原田、てめぇらは後で副長室に来い!」
背後で歳三が原田達に雷を落としているのを聞きながら、千が屯所の中に入ると、総司が笑顔で千を出迎えた。
「お帰りなさい、千君。」
「ただいま戻りました、沖田さん。」
もう自分は一人じゃない。
ここが―新選組が自分の居場所で、自分の帰りを待ってくれる人が居るから。
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