※BGMと共にお楽しみください。
「邪魔だ、退け!」
歳三が野次馬に向かってそう怒鳴ると、彼らは一斉に悲鳴を上げて逃げ惑った。
「土方さん、これから一体どうするつもりなんですか?」
「それは後で考える。それよりも、今は総司を探さねえと・・」
歳三がそう言いながら周囲を見渡すと、雑踏の中から薄井と手を握って歩いている総司の姿を見つけた。
「総司!」
歳三は雑踏の中から総司を呼んだが、距離が遠すぎる所為で彼は全く歳三達に気づかない。
「どうかしたか?」
「いいえ・・」
総司は誰かに呼ばれたような気がして背後を振り向いたが、そこには誰も居なかった。
「ねぇ薄井さん、本当に貴方と一緒に行けば労咳が治るんですよね?」
「ああ。移動に時間がかかるから、少しあんたには眠って貰う。」
「え?」
薄井の態度に違和感を抱いた総司が彼から逃げ出す隙を与えず、薄井は薬品を染み込ませたハンカチで総司の口元を覆った。
気絶した彼の華奢な身体を横抱きにした薄井は、そのまま八坂神社を後にし、三条大橋を渡り始めた。
「てめぇ、待ちやがれ!」
千と共に八坂神社から出た歳三は、総司を抱きながら三条大橋を渡っている薄井の姿に気づき、薄井を殺そうと彼の頭上に刃を振り翳した。
だが、その刃が薄井の頭上に届く前に、歳三は警察官によって胸を撃たれ、地面に蹲った。
「土方さん!」
「くそったれ・・総司を、返せ!」
歳三は苦痛に顔を歪ませながら、その場から立ち去ろうとする薄井の足を掴んだ。
「残念だったね。彼はもう俺のものだ。いや、正確にいえば、俺達のものかな?」
「それは一体、どういう意味ですか?」
「それはお前達が知らなくていい事だ。」
薄井はそう言って己の足を掴んでいる歳三の右肩を空いている方の足で体重をかけて踏みつけると、歳三の口から悲鳴が上がった。
「無様だな、鬼の副長さんは銃の前にはかたなしってか。」
薄井は歳三達に背を向け、雑踏の中へと消えていった。
「土方さん・・」
「可哀想に、あんたは二度と恋人には会えないよ。今の内に、いい夢を見るんだな。」
薄井は寝言で恋人の名を呼ぶ総司の黒髪を、そっと優しく梳いた。
薄井が総司を連れ去った後、千と歳三は京都市内の病院に搬送された。
千の怪我は軽傷で済んだが、脳の検査などをしなくてはならない為、一週間入院することになった。
「あの、土方さんはどちらに?」
「ああ、貴方と一緒に居た人なら、まだ意識が戻っていないわよ。胸と右肩からの出血が酷かったからね。」
千が病室を巡回している看護師に歳三の容態を聞くと、彼女はそう言って千の方を見た。
「貴方、彼とは一体どういう関係なの?見た所、兄弟ではないようだけれど。」
「土方さんは、僕の命の恩人です。あの、彼には会えますか?」
「まだ無理ね。彼が意識を取り戻したら、教えてあげるわ。」
「有難うございます。」
翌朝、千は歳三の怒声と看護師の悲鳴、そしてガラスが割れる音で目を覚ました。
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