「その指輪、どうしたんだい?」
「土方さんが、さっきここまでわたしを連れて来てくれたんです。変な人に絡まれていた所を助けて貰って・・」
「変な女?」
「ええ。わたしの事を泥棒猫と罵って来ました。」
「そうか・・君に絡んできた女は、わたしの恋人だった女だ。一体何処から潜り込んできたのかは知らないが、彼女は君の事をわたしの新しい恋人だと勘違いしたようだね。」
薄井はそう言うと、溜息を吐いた。
「わたしはパーティーに戻るよ。何かあったらわたしのスマホに電話してくれ、いいね?」
「解りました。」
「良い夢を。」
薄井は総司の額に唇を落とすと、そのまま部屋から出てパーティー会場へと戻った。
「土方さん、何処に行っていたんですか?」
「総司に会って、指輪を渡してきた。」
「そうですか。薄井さんと鉢合わせしませんでしたか?」
「ああ。それよりも千、さっき甲板で社長とその連れに会ったんだって?」
「はい。でも社長の婚約者の方から、余り自分達の事を詮索しないで欲しいと言われました。」
千はそう言って料理を皿に載せながら溜息を吐いた。
「その婚約者って、さっき俺が会った振袖姿の女か?」
「ええ、そうですけれど・・それがどうかしたのですか?」
「その女、さっき俺が会った時には別の男とイチャついていたぞ?」
「そうですか。まぁ、僕達には関係のない事なので、放っておきましょう。」
「そうだな。」
千と歳三がそんな事を話しながらパーティーを楽しんでいると、突然会場内が暗くなった。
「なに!?」
「停電か!?」
周囲の客達がざわめき始めた時、突然舞台の上にスポットライトが当たった。
「皆様、本日は我が社のクリスマスパーティーにお越しくださり、誠に有難うございます。これから、わたくし共の方で皆さんに重大な発表がございます。」
若竹幸一はマイクを握ると、そう言った後深呼吸した。
「大変私事ではありますが、わたし若竹幸一は、三条瑠璃さんと婚約したことを発表いたします!」
幸一の言葉と共に、瑠璃にスポットライトが当てられ、彼女は羞恥に顔を赤く染めながら、舞台に上がった。
「おめでとうございます、社長!」
「末永くお幸せに!」
舞台の上で社長の婚約を祝う彼らの部下達は一斉にそう言うと、完全にしらけている観客達に向かって拍手をするよう目配せした。
「何だこの茶番。早く港に着かねぇかな。」
「あと少しの辛抱ですよ、土方さん。」
歳三達を乗せた豪華客船は、クリスマスパーティー終了後に港に着いた。
「あ~、やっと終わったな。」
「道が混まない内に帰りましょう。」
「ああ、そうだな。」
千と歳三がそう言いながら船から降りた時、突然彼らの背後で薄井の怒声が聞こえた。
「しつこい女だな、君とはもう終わりだと言っただろう!?」
「何よ、それ!」
歳三が振り向くと、そこには薄井と対峙している例の女が立っていた。
「あの女、薄井の女だったのか。」
「土方さん、どうかしたんですか?」
「いや、何でもねぇよ。」
千と歳三は、港の入り口でタクシーに乗ってそのまま帰宅した。
「ただいま。」
二人がリビングに入ると、そこには誰もおらず真っ暗だった。
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