黒執事・薔薇王の葬列クロスオーバー中世パラレル小説です。
ディズニー映画「ノートルダムの鐘」風のパラレルですが、一部キャラ設定や時代設定が違っていたりしますが、それでもいいよという方のみお読みください。
セバスチャンは彼女に睨まれて一瞬たじろいだが、ここは主の体面を保つ為、一旦退いた方がよそさそうだと瞬時に判断した。
「そうですか。ではわたしはこれで失礼致します。」
「お言葉ですがミス・キャサリン、彼は我が伯爵家の執事だが、僕の後見人だ。」
「まぁ、そうでしたの。それならば仕方ありませんわね。」
ただの使用人であるセバスチャンが、次期伯爵であるシエルの後見人と知り、一瞬狼狽しながらもキャサリンはわざとらしく豊満な胸を揺らしながら、静かな口調で話し始めた。
「夫はあの祭りで、あのジプシーの踊り子に恥をかかされたのを根に持っておりまして、あのジプシーの踊り子を血眼で探しておりますの。」
「残念ですがミス・キャサリン、わたくし共はその踊り子の行方を存じ上げません、お力になれず残念です。」
「まぁ、そうでしたの。どうやらこちらを訪ねたのは、無駄足に終わりましたわね。」
キャサリンはそう残念そうに言ったが、その言葉の端々には微かな毒が含まれていた。
「セバスチャン、ミス・キャサリンをお宅までお送りしろ。」
「イエス、マイロード。」
「表に馬車を待たせておりますの、お気持ちだけで充分ですわ。」
またお会い致しましょう、キャサリンはセバスチャンの耳元でそう囁いた後、ファントムハイヴ邸から去っていった。
「あれがウッドウィル家の美人姉妹の、妹の方か。」
「坊ちゃん、まさかとは思いますが・・」
「僕は年増には興味がない、勘違いするな。」
「これは失礼を。それよりも、キャサリン様は何処から坊ちゃんの事をお知りになられたのでしょう?」
「さぁな。それよりもあの踊り子は何処へ消えたんだろうな?」
「彼女なら、“聖域”に居るのではないかと。」
「“聖域”だと?」
「あのバッキンガム判事の力が及ばない所といえば・・」
「ノートルダム大聖堂か。」
「えぇ。坊ちゃん、今夜は遅いので明日にでもノートルダム大聖堂へと参りましょう。」
「わかった。」
同じ頃、プランタジネット公爵邸の一室では、一人の貴婦人が鏡に向かって話しかけていた。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
―それは、リチャード。
(リチャードを一刻も早く見つけ出して、殺さなくては!)
その貴婦人は、鬼のような形相で割れた鏡を睨んでいた。
そのひび割れた破片の隙間から、リチャードへの怒りと激しい殺意に燃えた彼女の蒼い瞳が、蝋燭(ろうそく)の仄かな灯りの下、爛々(らんらん)と不気味な光を放っていた。
「奥様、どうかなさいましたか?」
「手が滑って、鏡を割ってしまったの。破片を片付けて頂戴。」
「まぁ、大変!奥様、お怪我はありませんでしたか?」
「ええ。」
慌てた様子で、割れた鏡の破片を片付けている侍女達の姿を見ながら、貴婦人は怒りで乱れた呼吸を整えていた。
「お前達はもう下がりなさい。」
「かしこまりました。お休みなさいませ、奥様。」
侍女達が部屋から立ち去った後、貴婦人はロザリオを握り締め、神に救いを乞うた。
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