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NEO HIMEISM 様からお借りしております。
クリスティーネとフィリスが王妃の首飾りを見つけた事など知らず、アンジェリーナは娼館で情報収集に精を出していた。
「シオン、あんたに客だよ。:
「わかったよ、マダム。」
アンジェリーナが娼館の奥にある特別室に入ると、そこには近衛隊長・ジリスが居た。
「珍しいね、あなたがこのような所においでになられるなんて。」
「少しお前に伝えたい事があって来たのだ。」
「伝えたい事?」
「急な事で悪いが、わたしは近衛隊長を辞する事になった。」
「何だって?では、後任は誰が?」
「フィリスだ。」
アンジェリーナの脳裏に、あの聡明な青年の顔が浮かんだ。
「そう。」
「それと、お前宛に舞踏会の招待状が来た。」
「ありがとう。」
ジリスから招待状を受け取ったアンジェリーナは、その送り主の顔を知っていたので安心した。
「今お前が娼館に潜伏している事は誰も知らんだろう。そこでだ、数日後に行われる陛下の生誕祭にお前も来て欲しい。」
「わかった。」
(今、わたしを邪魔する者は居ない。仕掛けるなら、この時期しかない。)
数日後、運命の日が来た。
「陛下、ご生誕おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「ありがとう。」
正装姿のフェリペは、そう言うとクリスティーネの手を取った。
「準備は良いか?」
「はい、陛下。」
その日、街は一日中お祭り騒ぎだった。
通りには露店が立ち並び、大道芸人達が互いの芸を市民達に披露し合っていた。
祭りが最高潮に達したのは、その日の夜の事だった。
「花火が始まるぞ!」
「押すなよ、時間はたっぷりあるんだ!」
花火が始まる数時間前、市民達は川岸に集っていた。
同じ頃、クリスティーネとフェリペも花火を見に観覧船に乗り込んだ。
「陛下、もうすぐ花火が始まります。」
闇夜に、赤、青、緑、黄、紫と、鮮やかな花火が浮かんでは消えた。
「綺麗ですね・・」
「そなたの方が美しいぞ、クリスティーネ。」
「本当に、アンジェリーナは現れるのでしょうか?」
「現れるとも。」
観覧船で花火を見物した後、ある貴族が主催する舞踏会へと出席した。
「アンジェリーナ、良く来たな!」
「本日はお招き頂きありがとうございます、閣下。」
「花火がよく見えて嬉しいだろう?」
「えぇ・・」
他の娼婦達と共に舞踏会へとやって来たアンジェリーナは、大勢の貴族達に囲まれたレイノルスの姿を見つけて蒼褪めた。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。」
(どうして、あいつがここに?)
「陛下がいらっしゃったわ!」
「お隣にいらっしゃるのは、クリスティーネ様ではなくて?」
「あれは、確か王妃様の首飾り・・」
貴婦人達の言葉を聞いたアンジェリーナが大広間の入口の方を見ると、そこには正装姿のフェリペとクリスティーネの姿があった。
そして、クリスティーネの胸には、自分が身に着けていた筈の王妃の首飾りが輝いていた。
「皆、今宵余とクリスティーネの為に集ってくれて礼を言う。」
フェリペは貴族達に向かってそう言うと、自分の隣に立っているクリスティーネの手を握った。
「今宵皆に集って貰ったのは、クリスティーネについて大事な知らせがあるからだ。」
フェリペの言葉を聞いた後、クリスティーネは貴族達の前に立った。
「クリスティーネを、余は王位継承者として王宮に迎え入れる事にした。」
(どうして、あの小娘が・・)
アンジェリーナが驚愕の表情を浮かべながらクリスティーネの方を見ると、彼女はアンジェリーナの視線に気づいた。
クリスティーネの邪悪とも思えるかのような笑みが、花火に照らされて、彼女の蒼い瞳は、禍々しい光で満ちていた。
―第二部・完―
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