「ステファニーさん、しっかりして下さい!」
「エドガー様、ここは・・」
ステファニーが目を開けると、そこには自分を心配そうに見つめ、自分の手を握っているエドガーの姿があった。
「ここは、“ダイヤモンド号”の中です。アトランティス号が沈没した後、わたし達はこちらの船に救助されたのです。」
「そうですか・・じゃぁ、小父様達は・・」
「お二人共無事ですよ。」
「良かった・・」
エドガーの言葉を聞いたステファニーは、安堵の笑みを浮かべた。
「ステファニー、無事だったのね!」
「小母様も、無事で良かった。」
フレイザー伯爵夫妻と再会したステファニーは、彼らと抱擁を交わした。
「小母様達はこれからどうなさるおつもりで?」
「予定通りに観劇を楽しむわ。あなた達は?」
「それはわかりません。でもエドガー様となら楽しめます。」
「そうね。」
“ダイヤモンド号”でNYまでの航海をステファニーは楽しんだ。「「
エリス島での入国審査を終えた後、ステファニー達は船でマンハッタンにある宿泊先のホテルへと向かった。
「ねぇエドガー様、アメリカは英国と全然違いますね。」
「えぇ。」
NYの中心地・タイムズスクエアは、新聞売りの声や馬車の音などの喧騒に満ちていた。
人波に逆らうようにしながらホテルに漸く着いたステファニー達がフロントで寛いでいると、そこへ一人の男がやって来た。
「ステファニー=セルフォード様ですね?」
「はい、そうですが・・貴方は?」
「わたしはNY市警刑事・アルフレッド=ノックスでと申します。ステファニーさん、貴方を窃盗容疑で逮捕します。:
「そんな・・何かの間違いです!離してください、離して!」
「ステファニーさん、必ずわたしがあなたを助けます!」
「エドガー様!」
突然窃盗容疑で逮捕されたステファニーは、警察で意外な人物と再会する事になった。
「お久しぶりね。」
「あなたは・・」
ステファニーの前には、“アトランティス号”の歓迎パーティーで自分に言いがかりをつけてきたアメリカの成金婦人だった。
「奥様、こちらの方があなたのダイヤモンドを?」
「えぇ、この子がわたしのダイヤモンドを盗んだんです!」
「何かの間違いです!わたしは何も盗んでいません!」
「奥様、我々がダイヤモンドを探し出しますので、どうかご安心ください。」
ノックス刑事はそう言って成金婦人を宥めようとしたが、彼女は落ち着くどころかますます興奮した。
「早くこの子を牢屋へぶち込んでくださいな!」
「お待ちください!」
ステファニーは警察署に現れたエドガーを見て、安堵の表情を浮かべた。
「あなた、誰よ!?」
「わたしはこの方の婚約者です。彼女は決してあなたのダイヤモンドを盗んでなどいない!」
「何よ、証拠でもあるの!?」
「わたし達は、“アトランティス号”が沈没する前、あなたがダイヤモンドを使用人達に命じて運び出させていましたよね?その使用人達は今、どちらに?」
「そ、そんな事、わたしが知る訳ないでしょう!」
エドガーからそう指摘された成金婦人は、そうヒステリックに叫ぶと彼を睨んだ。
「奥様、そうすると、我々はあなたの勘違いでこちらの方を誤認逮捕してしまった、という事ですか?だとしたら、これは問題になりますよ?」
ノックス刑事がそう言って成金婦人を睨むと、彼女の目が少し泳いだ。
「そ、それは・・」
「ノックス刑事、わたしの婚約者を今すぐ釈放してください。」
エドガーの訴えを受けたノックス刑事は、ステファニーを釈放した。
「ステファニーさん、ホテルに戻って休みましょう。」
「えぇ・・」
「待ちなさい!」
警察署の前でステファニーがエドガーと共に馬車に乗ろうとした時、成金婦人が二人の間に割って入って来た。
「あなたは、わたしと来なさい。ダイヤモンドが見つかるまで、わたしの屋敷で働いて貰うわ。」
「そんな・・無茶苦茶な!」
「エドガー様、それでわたしの疑いが晴れるのなら、わたしは彼女に従います。」
ステファニーはそう言うと、エドガーの頬を優しく撫でた。
「大丈夫です、わたしはすぐにあなたの元に帰って来ます。」
「・・決まりね。」
こうしてステファニーは成金婦人ことグレイ夫人の家でハウスメイドとして働く事になった。