「ジョージはまだ寝込んでいるの?」
「はい、奥様。」
「全く、あの子は面倒ばかりかけるんだから。」
グレイ夫人は吐き捨てるようにそう言った後、一階へと降りていった。
「冷たいねぇ。」
「そりゃぁ、前妻の子だからね。」
「それじゃぁ、前の奥様はどんな方だったのですか?」
「綺麗でとてもお優しい御方でね、あたし達使用人にも良くしてくれたよ。」
「全く、今の奥様とは大違いだよ。」
「そうそう。」
「ステファニー、奥様がお呼びよ。」
「はい、わかりました。」
ステファニーが二階から一階へと降りてグレイ夫人が居る居間へと入ると、そこにはエドガーの姿があった。
「エドガー様、何故こちらに?」
「ステファニーさん、あなたは今日で自由の身ですよ。」
「それは、一体どういう事ですか?」
「実は・・」
エドガーは、グレイ夫人がステファニーに盗まれたと主張していたダイヤモンドが、NYの質店で発見された事を話した。
「どうして、ダイヤモンドがNYの質店に?」
「それは、あなたの方から説明して下さい。」
「そ、それは・・」
「出来ないというのなら、わたしが説明しましょう。グレイ夫人、あなたは下の息子さんのポーカー賭博の借金を返済する為、ダイヤモンドを質に入れたのですね。」
「そ、そうよ!」
「その質店からわたしが懇意にしている宝石店のオーナーから連絡がありましてね・・あなたが質入れしたダイヤモンドは、屑同然の代物でしたよ。」
「あれは、南アフリカで一番の・・」
「詐欺師の口車にまんまと乗せられて、あやうく全財産を失うところでしたね。」
エドガーはそう言うと、冷たい目でグレイ夫人を睨んだ。
「わたしの婚約者を返して貰いましょう。」
「わかったわよ!」
グレイ夫人はそう言って歯軋りした後、居間から出て行った。
「さぁステファニーさん、早く着替えて下さい。」
「はい、わかりました。」
ステファニーが二階の屋根裏部屋で着替えをしていると、そこへジョージがやって来た。
『どこかへ行くの?』
『えぇ。短い間でしたが、ジョージ様をお知り合いになられて嬉しかったです。』
『また会える?』
『ジョージ様が、会いたいと思えるのなら、会えますよ。』
ステファニーはジョージと抱擁を交わした後、グレイ邸を後にした。
「何だか長いようで短かった一ヶ月でした。」
宿泊先のホテルの部屋のソファに座ったステファニーは、そう言うと溜息を吐いた。
「ステファニーさん、あなたを迎えに来るのが遅くなってしまい、申し訳ありません。」
「謝らないで下さい、エドガー様。」
「ステファニーさん、そんな顔をしている時は、何か心配事でも?」
「えぇ。」
ステファニーはエドガーに、グレイ家の家庭環境を話した。
「そうですか・・」
「わたしはジョージ様の事が気になって仕方がないんです。何だか、弟に姿を重ねてしまって・・」
エドガーはステファニーの言葉を聞いて、彼の弟・レオナルドが、ジョージ=グレイと同じ喘息の持病を持っている事を思い出した。
「エドガー様、これを。」
「これは、ジョージ様の誕生日パーティーの招待状ですね。」
「えぇ。」
「ジョージ様とステファニーさんと出会ったのも何かの縁です。すぐに出席の返事を致しましょう。」
「はい。」
ステファニーとエドガーは、グレイ家の三男・ジョージの誕生パーティーに出席した。
「ジョージ様、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「ジョージ、あなたにお客様が来てるわよ。」
「わかりました、お母様。」
ジョージが玄関ホールへ向かうと、そこには盛装したステファニーと、彼女の婚約者と思しき綺麗な男の人が立っていた。
『お誕生日おめでとうございます、ジョージ様。』
『ステファニー、来てくれたの!』
ジョージはそう叫ぶと、ステファニーに抱きついた。