素材は
コチラからお借りしました。
「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
つまらない。
華やかなシャンデリアも、沢山並んだご馳走も、少年の目には全てがつまらなく見えた。
親の“仕事”の都合で、誰かの結婚式に出席したのだが、そこは大人の社交場。
子供である歳三にとっては退屈この上なかった。
両親は新郎新婦やその親族への挨拶回りに忙しく、歳三は披露宴の会場の隅で、只管箸を動かしながら鶏の唐揚げと沢庵を交互に頬張っていた。
「まぁ、見て・・」
「可愛らしい事。」
時折椅子に座り沢庵を頬張っている歳三の姿を、チラチラとドレスや色留袖姿のご婦人達がそんな事を言いながら見ては通り過ぎていった。
それもその筈、彼は加賀友禅の振袖姿に、西陣織の帯を締めていた。
披露宴の会場には何人か子供の姿があったが、皆洋装姿で、振袖姿なのは歳三だけだった。
(あ~、早く脱ぎたい・・)
歳三は長い黒髪を桃割れに結われて華やかに着飾ってはいるが、れっきとした男児である。
“トシちゃんの髪は、簪が映えていいわね。”
“本当。”
警察官一家で、六人兄弟の末っ子として生まれた歳三は、二人の姉達に大層可愛がられていた。
しかし彼女達は困った事に、時折歳三を等身大の着せ替え人形のように色々と彼の髪と顔を弄る癖があった。
その所為なのかどうかはわからないが、正月や盆などの親族が集まる年中行事には、必ず仏頂面を浮かべている歳三の姿が写真や映像に残っていた。
そして今日も、結婚披露宴というめでたい席であるというのに彼は仏頂面を浮かべていた。
新郎新婦のお色直しや彼らの友人達の余興、そして新婦の両親への手紙朗読など、全てが歳三にとっては退屈で、早くホテルの部屋に戻りたくて仕方がなかった。
漸く披露宴が終わり、招待客達が三々五々それぞれ自宅やホテルの部屋に戻っていく中、歳三達は新郎の親族と話し込んでいた。
「ねぇ、もう帰ろうよ~」
「あと少しだから、ね?」
「嫌だ、もう帰るっ!」
「待ちなさい、トシ!」
自分を優しく宥める母の手を乱暴に振り払うと、歳三はそのまま会場から飛び出していった。
背後で母親が自分を追い掛ける声を聞きながら、彼はパタパタと軽やかな足音を大理石の床に響かせ、闇雲にホテルの中を走っていった。
「もう、あの子ったら一体何処に行ったのよ・・」
「部屋に帰ろう。」
「えぇ。」
肩で息をしながら何とか自分を追い掛けて来た両親を撒いた歳三は、靴擦れで痛む足を擦りながら、近くのベンチの上に腰を下ろした。
「君、草履の鼻緒が切れているよ?」
「え?」
俯いていた顔を歳三が上げると、そこには翡翠の瞳を煌めかせながら、一人の少年が自分を見ていた。
“トシさん。”
突然何処からか聞こえた、誰かの懐かしい声。
「君、どうしたの?何処か痛いの?」
少年からそう尋ねられ、歳三はその時自分が泣いている事に気づいた。
(何で、涙なんか・・)
「大丈夫だよ、トシさん。“今度は”独りになんかさせないから。」
ふわり、と春風が吹いたかのように薄茶の髪を揺らしながら、少年はそう言うと歳三を抱き締めた。
「トシ~!」
「歳三、何処だ~!」
「あ、ごめん俺もう行かねぇと!」
「待って!」
慌てて歳三を引き留めようとした少年に非情にも歳三は背を向け、そのまま彼の元から去ってしまった。
「やっと会えたと思ったのになぁ・・」
そう呟いた少年は、何処か寂しそうに笑った。
両親から逃げ回っていた歳三は、着物を泥だらけにしてしまい、母親から大目玉を食らっていた。
「もう、こんなに立派な振袖を汚して!」
「ごめんなさい・・」
「もういいだろ。トシ、今日は色々と済まなかったな。先に休んでいなさい。」
「お休みなさい。」
「全く、あなたはあの子に甘いんだから!」
「そんなに怒らなくても・・」
両親が言い争う声を扉越しに聞きながら、歳三はゆっくりとベッドの中で眠った。
「うあぁ~!」
「八郎坊ちゃま、どうされたのですか!?」
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