「薄桜鬼」の二次小説です。
制作会社様とは一切関係ありません。
土方さんは両性具有です、苦手な方はご注意ください。
「近藤さん、あいつ誰だ?」
「あぁ、彼は確か、“闇の魔術に対する防衛術”の教授だ。」
「ふーん、何だか鬱陶しい野郎だな・・」
「そう言うな、トシ。」
「お、おぉ!」
真紅のローブの裾を翻した金髪碧眼の男は、突然そう叫ぶと歳三の手を握った。
「まるで黒檀を思わせるかのような艶やかな漆黒の髪、雪のように白く抜けるような肌、そして上質のラピスラズリを思わせるかのような紫の瞳・・君はまるで、闇夜の柩に眠る白雪姫!」
「おい近藤さん、こいつ殴っていいか?」
「落ち着け、トシ。」
「はじめまして、わたしはジュリア=レオンハート。本日から、“闇の魔術に対する防衛術”の教授として、このホグワーツ魔法魔術学校に着任する事になりました。どうぞ、よろしく。」
「ど、どうも・・」
少しハイテンションなジュリアに引きながら、歳三は彼と握手を交わした。
「おや、こちらが新しくいらっしゃった先生ですね。はじめまして、わたしはこの学校で魔法薬学を教えている山南敬助と申します。以後お見知りおきを。」
「どうも。」
ジュリアは素っ気ない口調でそう言うと、そのまま大広間から出て行った。
「何だか気持ち悪い奴だな・・」
「まぁまぁ・・」
朝から変な奴に絡まれ、昨夜は風間が一晩中自分い会わせろとうるさく騒いだので、その所為で一睡も出来なかった歳三は、午前の授業が終わった後、自室の机に突っ伏して眠ってしまった。
―嗚呼、こちらはいらっしゃったのですね。
歳三は目を開けると、そこには自分を見つめる見知らぬ音の姿があった。
―さぁ、わたくしと共に参りましょう。戴冠式の主役が遅れてはなりません。
歳三はドレスの裾を摘まむと、男と共に歩き出した。
(何だ、今の夢は・・)
夢にしては、何処かリアルで、まるで歳三がその世界に生きているかのようだった。
コンコンと、窓に小石が当たるような音がしたので歳三が我に返って窓の方へと向かうと、そこには一羽のワシミミズクの姿があった。
歳三がワシミミズクの足首に括りつけられている手紙を受け取り、ワシミミズクに金貨を渡すと、彼は満足そうに鳴いて去っていった。
手紙には、歳三の養父であるアシュレイ伯爵が急死したとだけ書かれてあった。
「そうか、お義父様が・・」
「済まねぇな、こんな忙しい時期に学校を留守にしちまって。向こうが落ち着いたら戻ってくる。」
「わかった、気を付けて行って来い。最近、この近辺ではマグル狩りが頻発しているようだからな。」
マグルー所謂魔法使いではない者達の呼称でもあるのだが、近年は“マグル生まれの魔法使い”の略称でもある。
「そうか。また、あいつらの仕業なのか?」
「いいや、どうも違うらしい。魔法省は犯人探しに躍起になっているようだが、まだ何の手掛かりも掴めないらしい。」
「近藤さん、それじゃぁ行って来るぜ。」
「あぁ。」
歳三はホグワーツを出て、ロンドン行きの汽車に飛び乗った。
荒涼な草原を車窓から眺めながら、歳三は初めて養父と会った時の事を思い出した。
歳三は、この世に産まれ落ちた瞬間から両親の顔を知らぬ孤児だった。
物心つく頃には孤児院で暮らしていたが、彼の周りで不可解な怪現象が起こるので、子供達も職員達も気味悪がった。
里親先を転々としては、孤児院に戻される日々を送っていた歳三の心は、孤独でささくれ立っていた。
マグルの学校に通っていたが、喧嘩を繰り返しては何度も退学・転校した。
ナイフと拳だけが己の友だと思っていた歳三を救ったのは、アシュレイ伯爵だった。
その日、歳三はまた学校で喧嘩をし、何度目かの退学となった。
「本当にあの子でよろしいのですか?」
「ああ。」
「あの子は乱暴で手に負えませんわ。まるで野生の獣のよう・・」
「愛される事を知らない人間が、人を愛する事が出来るのかね?」
突然住み慣れた孤児院から離れ、英国貴族の養子をとなった歳三は、はじめはアシュレイ伯爵を疑っていた。
養子として引き取って、またあいつらみたいに自分を捨てるのではないかと。
だが、そんな疑いは、すぐさま消えた。
アシュレイ伯爵は、何の見返りを求めず、最高の教育を与えてくれた。
孤独でささくれ立っていた心は、いつしか愛で満ちるようになっていた。
11歳の時、ホグワーツ魔法魔術学校の入学許可証が歳三の元に届くと、アシュレイ伯爵は快く彼をホグワーツへと送り出してくれた。
自分に愛を教え、愛を与えてくれた養父は、恩返しをする前に天国へ逝ってしまった。
歳三は養父を喪った悲しみに襲われ、涙を流した。
町中に、弔いの鐘が鳴り響いた。
アシュレイ伯爵の遺体はロンドン市内の病院に一旦安置され、領地にある一族代々の墓地に埋葬された。
「父上、父上!」
埋葬人によって土をかけられる父親の柩を見た伯爵の実子・ジョンは涙を流した。
(安らかに眠って下さい、お義父様・・)
真新しい養父の墓石に跪き、歳三は静かに彼の冥福を祈った。
「あら、まだ居たの?」
「奥様・・」
伯爵邸の中へ歳三が入ろうすると、玄関ホールには冷たい目で自分を見つめている養母・シャルロットの姿があった。
「ここへは何しに来たの?」
「養父の形見を取りに・・」
「そう。では書斎へ行きなさい。」
「わかりました。」
歳三が書斎へ向かうと、そこでは養父の私物を物色する親族達の姿があった。
「あら、来たのね。」
「何をしているんですか!?やめて下さい、こんな泥棒のような事は!」
「お黙り、貰い子の分際で!」
歳三が養父の形見として受け取ったものは、彼が生前愛用していた懐中時計だった。
その日の夜、歳三が寝室で眠っていると、何処からか誰かが自分を呼ぶような声がした。
寝室から出た歳三が、人気のない廊下を歩いていると、再びあの声が聞こえた。
(誰なんだ、俺を呼ぶのは?)
「あ~あ、全く嫌になっちゃうよね。“闇の魔術に対する防衛術”だっていうのに、何で“魔法史”のレポートが出されるんだろう?」
「文句を言うな、総司。」
「あれ、この人土方さんじゃない!?」
図書館で“闇の魔術に対する防衛術”の宿題のレポートを仕上げる為に“禁書”の棚へとやって来た総司、平助、斎藤は、ある書物に歳三と瓜二つの顔をした女性の顔を見て思わず叫びそうになった。
「“闇の女王・カタリナ、1834~1869。”土方さんが女装しているのかと思っちゃったよ。」
その夜、歳三はまたあの不思議な夢を見た。
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