「PECEMEKER鐵」二次創作です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
ピスメでオメガバースパラレルです。
α土方さん×Ω沖田さんという設定です。
オメガバースに嫌悪感を抱かれている方は閲覧しないでください。
「事件の下手人が捕まらないと、安心して寝れやしないわ。」
「そうですね。」
主である少女―美佐の元に仕えて数年経つが、美佐は大店の娘“らしく”我儘な性格で、良く自分を始めとする使用人達を振り回して困らせていた。
「お嬢様、わたくしはこれで失礼致します。」
「梓、花王堂でこのお菓子を買って来て頂戴。」
「かしこまりました。」
「頼んだわよ。」
美佐の部屋から出た梓は、深い溜息を吐いた。
その時、下男の三郎が梓の前を通りかかった。
「梓、今から出掛けるのかい?」
「はい。」
「お嬢様の我儘にも困ったものだね。」
「ええ、本当に。」
「気を付けてね。」
「はい。」
梓は屋敷から出ると、美佐いきつけの和菓子屋・花王堂へと向かった。
「すいません、この菓子を一つ下さいな。」
「はい。」
美佐のお気に入りの菓子を買って屋敷へと戻る途中、梓は何やら人だかりが屋敷の前に出来ている事に気づいた。
「何かあったのですか?」
「あんた、無事で良かったねぇ。さっき、あそこのお嬢さんが賊に殺されたんだよ。」
「お嬢さんだけじゃないよ、家族や使用人も皆殺しだってさぁ・・」
(お嬢様が、殺された・・)
つい先程まで、自分に対してぞんざいな口を利いていた美佐が殺されたなんて、梓は信じられなかった。
「大店の華屋が賊に襲われたそうだ。」
「家族と使用人は皆殺しだったそうだ。」
「惨いもんだぜ・・」
総司は道場で稽古をしていると、中庭の方から華屋の事件の事を話している隊士達の会話を聞き、思わず持っていた木刀を落としてしまった。
「総司、どうした?」
「すいません、身体が怠くて・・」
そう言った後、総司は倒れた。
「総司が倒れた!?あいつは大丈夫なのか、勝っつぁん!?」
「あぁ、総司なら大丈夫だ。医者が言うには、軽い貧血らしい。」
「そうか。」
「それよりもトシ、この前掃除を蔵で抱いただろう?」
「あぁ、それがどうした?」
「もしかしたら、総司は・・」
勇の言葉を聞いた歳三は、彼が何を言いたいのかがわかった。
「その時は、その時だ。」
「そうか・・」
そんな二人の会話を、総司は自室で聞いていた。
(子供、かぁ・・)
男女問わず妊娠できる身体であるΩ。
だが、男性の妊娠・出産は、女のそれ以上に命に関わるという。
歳三との子は欲しいが、己の命と引き換えとなると、自分の命か、子供か―その選択を迫る時が、必ず来るのだろうか。
「総司、どうした?」
「いいえ、何でもありません。それよりも土方さん、あの事件はどうなったんですか?」
「華屋の事件か?下手人は、まだ捕まっていないようだ。」
「そうですか。実はわたし、殺された娘さん・・美佐さんとは面識があるんです。いや、あった、と言った方が正しいですね。」
総司がそう言うと、美佐と会った日の事を話した。
その時美佐は、近々結婚する予定があるのだという。
「相手は誰なのかわかりませんでしたが、とても幸せそうでした。それなのに・・」
「そうか。総司、ゆっくり休んでいろ。」
「わかりました。」
歳三が自室から出た後、総司は溜息を吐いた。
「ここか・・」
屯所を出た歳三は、凄惨な事件現場へと向かった。
かつては賑わっていた華屋は荒れ果て、朽ちるのを待つだけの状態となっていた。
(短い間でこんなに寂れるものとは、何とも・・)
歳三が華屋の中に入ると、血痕と思しき赤黒い染みが畳の上に広がっていた。
歳三が奥へと進もうとした時、彼は背後に強烈な視線を感じて振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。
「あ・・あぁ・・」
「失礼だが、貴殿は?」
「ひぃぃ~!」
歳三が青年に声を掛けると、彼は素っ頓狂な悲鳴を上げて逃げていった。
(何だったんだ、あいつ・・)
歳三がそんな事を思いながら華屋から外へと出ると、彼は一人の娘と目が合った。
「あなたは・・」
「俺は壬生浪士組の土方だ。あんた、華屋の・・」
「わたしは、美佐お嬢様の身の回りのお世話をしておりました、梓と申します。」
「ここへは、お嬢様の弔いに?」
「はい。お嬢様を殺してしまったのは、わたしですから。」
梓はそう言って華屋の前で手を合わせると、美佐の冥福を祈った。
「それは、一体どういう意味ですか?」
「あの日、わたしはお嬢様を独りにしてしまいました。」
梓はあの日から、美佐を独りにさせてしまった事を後悔していた。
「あなたの所為ではありません。」
「どうか、お嬢様を殺した奴らを捕まえて下さいませ!」
梓はそう叫ぶと、歳三に向かって頭を下げた。
「梓ちゃん、あんたにお客様え。」
「わかりました。」
(こんな時間に、うちを訪ねて来る客なんて・・)
梓がそんな事を思いながら新しい奉公先の邸から外へと出ると、そこには誰も居なかった。
(やっぱり・・)
梓が屋敷の中へと戻ろうとした時、彼女は何者かに胸を刺された。
「あなたが・・お嬢様を・・」
梓の意識は、闇の底へと落ちていった。
「華屋の女中が、土左衛門で見つかった。」
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