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2010.02.25
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『星空のメモリア』感想 第三十一回

“小河坂千波”編



洋たちの親世代の事情が大部分明らかになった。

ヒロイン同士だけでなく、親子間でも対照、或いは相似関係が見られるのが面白い。



※以下、ネタバレ注意















































前回のあらすじ。

詩乃さんと気まずくなってしまった。


【8月23日】

詩乃さんに食費を渡せないまま、逃げるように千波を連れて肝試しに出る洋。

「お兄ちゃん……詩乃さんが言ったとおり、お兄ちゃんは悪くないよ……」

……。

「だから元気出しなよっ、お兄ちゃんの代わりに千波がバイトするからねっ、千波はあくまで誰のためでもなく自分のためだけにお金稼ぐからねっ」

すぐに両手をバンザイしていつもの調子だ。

明日歩ルートで、今までずっと千波の明るさに救われてきた、と独白した洋の気持ちが少しだけわかった気がする。



明日歩と飛鳥に合流する為、校舎に侵入した二人の耳を、オルゴールの音色が打つ。

「お兄ちゃんと一緒に作った、オルゴールの音色……」

聞こえてくる、エンディングテーマのオルゴール版。

曲のタイトルを、二人は知らない。

その曲は一般的なものじゃないから。

今はもういない、千波の父親が作曲したものだから。

“千波の”父親。

……ようやく小河坂家の家計図が見えてきた。



天クル部室で、レンちゃんと……こいつは“プラネタリウムの館長”か?

とにかく二人が、洋たちの接近を知って慌てている。

「逃げるくらいなら最初から部室で作業なんかしなければいいのに……」

「知ってるだろ、俺の家は散らかってるんだ。スペースがないんだよ」

「ダメ人間……クスクス……」

そして、こいつが“洋の父親”ね。

あぁ、ようやく色々と繋がった。



鳴り続けるオルゴールの音色に、千波は切迫して部室の扉を開け放つ。

「お父さんっ……教えてよ、お父さんっ……」

「千波はっ、千波は……」

「千波は、いらない子供だったの――――?」

……。

なんてこと言わせんだよ……。

千波の父親、洋の父親、そして“小河坂歌澄”。

お前ら揃いも揃って、こんな良い娘にこんな悲しいこと言わせて、とんでもないクズ親だと思わないの?

「それが、キミの悪夢ですね……」

現れたレンがいきなり、鎌で千波の胸を貫く。

気絶して床に崩れ落ちる千波を、洋は抱き止める。

そのまま以前と同じく茫然自失と……することはなく、レンから情報を引き出そうと冷静にしている辺り、明確に成長しているな。

「キミにとってのまつろわぬものが、展望台の彼女だったのと同様……」

「千波さんにとっての、自分の枷となる存在が――――」

「―――千波さん自身だった、それだけのことです」

いやいやちょっと待て、なんでお前が夢のこと知ってんだ?

問い掛ける間もなく、レンは消えてしまった……。



目が覚めない千波を姫榊父に診せた後、部屋のベッドに寝かせる。

後は任せて寝るように促す詩乃さんに、洋は夕食時の話の続きを告げる。

「詩乃さん。俺、詩乃さんを家族だと思ってます」

「だけど、甘えるとか、そういうのはちょっとよくわからなくて……」

甘えるどころか「望遠鏡買ってくれ」とひとこと言うだけで冷や汗ダラダラだもんね。

そんな洋に、詩乃さんは笑って、焦らなくてもいいと言ってくれた。

「もっと一緒にお話しできる、もっと一緒にご飯が食べられる、悲しむことも笑うことも一緒にできる」

「一緒にお風呂だって入れるのよ」

「いやそれは家族としても間違ってます」

これでひとまず仲直りか……よかったよかった。

ちょっと頼りない人だと思っていたけど、ちゃんと老成した態度も取れるんだな。

 

その晩、洋は過去の夢を見る。

都会に転校した直後の夏休み。

洋は反抗期に入った千波に拒絶されつつ、オルゴールの製作を手伝った。

オルゴール用に選んだ曲は、作曲が趣味だった千波の父のオリジナル曲。



千波の父は、幼い頃からピアノを習っていたらしい。

そんな彼と歌澄は、ヒバリ校で付き合い始め、そして卒業前に別れた。

俺の父親――三島大河と母さんが結ばれたのはその後だと聞いている。

俺を産み、母さんはそれから今度は父さんと別れ、また千波の父とつきあうことになる。

その詳しい経緯は俺も知らない。

……なにそれ、何があったらそんな意味不明な状況になんの?

……。

話を纏めると、こうなる。



学生時代。歌澄、“千波父”と付き合う。

卒業後。歌澄、“千波父”と別れる。

歌澄、三島大河と結婚し、洋を出産。

歌澄、三島大河と離婚。

歌澄、“千波父”と結婚し、千波を妊娠。

“千波父”死亡。恐らく病死。

歌澄、洋と千波を抱えて家を飛び出しアパート暮らし。

歌澄死亡。洋と千波は詩乃さんに引き取られる。



……。

なんだこりゃ?

こうやって纏めて見ても、当事者三人それぞれが何をしたかったのかまるで見えてこないぞ。



一方、昏睡を続ける千波は、レンに導かれて高次元空間を彷徨う。

レンが言うところに拠れば、ここは十二次元の領域である“超銀河団領域”。

……レンは十二次元存在ってことか?

その割には、たかが三次元存在に電磁波照射されて補足されたり、能力的にショボイけど。

「といっても、そんなたいそうなものではなく、単にそういう類の存在というだけです……」

「キミとはふるさとが違うだけの存在です……」

…そんなに凄い生き物でもないらしい。

レンは今さら、千波に自己紹介。

「名前はレンです……」

「天文部の皆さんは、そう呼んでいました……」

「今は、恋の死神なんて呼ばれているみたいですけど……」

“天文部”……?

ともかく、こんな超空間に千波を連れてきて、肝心のご用件は何ですか?

「私は彼との約束で、キミを見守っていたんです……」

「助けが必要なときは、助けて欲しいって言われていたんです……」

「だから……教えます……」

「キミのそばにいた……星霊からも聞いていたこと……」

「キミの両親のことを教えます――――」

……。 

しかし、千波は既に全て知っていたようだ。

千波は子供のころ、歌澄と実家の人間との会話を聞いてしまい、自分の出生の経緯を知り、そしてグレた。

自分の父親と歌澄が結ばれてしまったから、自分たちは実家から勘当され、孤立無援で苦労している。

父親が歌澄に、自分を産ませたから。

自分のせいで、家族が苦労している。

「お兄ちゃんと一緒にオルゴールを作ったとき……千波はいっぱい泣いたんだよ……」

「とってもいい曲だったから、泣いたんだよ……」

「よくない曲だったらよかったのに……」

「そうしたら、お父さんのこと、もっと嫌いになれたのに……」

歌澄が死んだのも、洋が苦労しているのも自分のせいだと言う千波を、レンは宥める。

みんなが、千波が幸せに生きることを望んでいるのだと。

「私は本人から聞いていますから……」

「星霊となってもキミを見守っていた、キミの両親から聞いていましたから……」

……。

こさめルート、エピローグで出てきた歌澄を思い出す。

あれ本物の幽霊だったのかい。

「キミは家族について考えなくてよかった……責任を感じる必要なんてなかった……」

「無理に父親を嫌いになることはなかった……」

「母親に反抗することはなかった……」

「兄を世話しようなんて気負わなくてよかった……」

「ただ、感じるままでよかったんですよ……」

……。

「感じる……まま……」

千波は、ぽろぽろと涙を零す。

「お父さん……」

「お母さん……」

「お兄ちゃぁん……」

レンは、千波のオルゴールを差し出す。

父が作曲し、母が楽譜を守り、洋と千波で再現したオルゴール。

「この旋律が家族の象徴……」

「だから……送り還したキミの夢、私がまた還してあげます……」

「キミを、家族の元に還してあげます――――」

……。

レンが千波の悪夢を刈ったのは、恐らく三島大河との約束だったから。

メアも、誰かとの約束に従って洋の悪夢を刈ったと言っていたが、何か繋がりがあるかな…。



同時刻、ミルキーウェイ。

万夜花さんとマスターが“都市伝説の死神”について話をしている。

「これだと、死神のせいで二人は別れたってことになるじゃない」

「レンのせいで歌澄が恋を忘れたってことになるじゃない」


……万夜花さんが、歌澄を知っている。

いよいよこんがらがってきた……。

「この都市伝説には続きがあるじゃないか」

「男のことを忘れてしまった女は、時を経て再び男と巡り合い……」

「そしてもう一度、恋に落ちた」


……。

「……私は、やっぱりわからないわ」

「だって、女にはもう他の男がいたんだから」


「そうだね。これはキレイな純愛物語じゃないからね」

俺の意見は、万夜花さんに近い。

小河坂歌澄は不義理を犯し、洋と千波を苦難に巻き込んだ。

それを自分でわかっていたから、せめて自分の手で子供達を育てようと頑張ったのか。

小河坂歌澄は、それで幸せだったんだろうか……。






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Last updated  2010.02.25 04:01:12
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