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カテゴリ:彫刻について
師範工作
本科男子用 巻1 文部省偏 昭和18年 第一章 彫塑 1、面の模刻 我々の周囲に存在するものは、すべて立体である。 我々は、それを視覚や触覚を通して認識している。 彫塑はこの感覚器官を通して把握した立体観を源泉として成立するものである。 しかし我々は、すべての物体を立体として認識しているといっても、その実、認識の仕方が不徹底であったり、立体を平面的に解釈して見ていることが少なくない。 例えば、我々は人の顔面を正面から見て、頬の膨らみや鼻の高さなどを大体把握しているようでも、いざこれを彫塑で立体に表現しようとする場合などになると、知らずしらず側面に廻って輪郭線によって額や鼻の形や高さを理解しようとする。 かくのごときは立体を立体として確実に把握しているものではなく、立体を平面観の中に閉じ込めた見方をしているのである。 彫塑をするには、かかる境地からまず脱却して、真の立体観を把握しなければならない。 その修練の最初として”死面”の模刻をするのである。 以下”面”の模刻の順序方法の大要を述べる。 1、三脚架、室内用画架を上部にしたようなもので、高さ約180㎝のもの。 2、台板、縦約75㎝・幅約60㎝・厚さ約3㎝の両端に端嵌をつけた板。 3、ヘラおよびカキトリ、図に示したようなもの数種。ヘラはつげ製がよい。 4、その他、「コンパス」・定規・湿布などを要する。 準備 1、台板の左方に標本の面をかけ、右方に長さ約12㎝と約15㎝との2本の角材を十字形に組み合わせた心木を打ち付け、さらに細いシュロ縄2本を図に示すように取り付ける。 この心木やシュロ縄は確実に粘土を支えるためである。 標本の面と心木との感覚は、両手を肩幅に前方へ突き出したとき両手の指先の間隔とし、両者正しく左右に並ぶようにする。 標本と心木との感覚や位置関係は、後の制作の結果に大きな影響を及ぼすものであるから、十分な注意をもって正確にしなければならない。 2、台板を三脚架に載せ、その中央が眼と同じ高さになるようにし、後脚と前脚とをしっかり止め、制作の途中で動いたり倒れたりしないようにする。 3、粘土は十分よく練り、硬軟2種を用意する。 4、製作の場所は左斜後方から光線の来るような場所に三脚架を立てる。 姿勢 1、製作は立ってする。 腰を掛けたり座ったりしてはよくできない。 2、三脚架に向かい一歩の距離に位置し、右手を身体から直角に伸ばして丁度心木の所に持っていき、右足を心木の前方の線上に置き、左足は標本の前方の線上に、右足より半歩後方に置く。 しこうしてこの姿勢のまま、標本を観察するときは、体重を左足にかけて眼が標本の真正面に来るようにし、土づけの時は、体重を右足にかけて、目が心木の真正面に来るようにする。 3、遠くの方から標本と作品とを比較する必要がある場合は、足をその線上に後退させて見る。 4、製作のときの姿勢いかんは作品に大きな影響を及ぼすから、製作中は常にこの姿勢をくずさないでする。 製作 1、標本を真正面から観察して正中線を見出し、その正中線と、眼と眼とを結ぶ線との関係、眼と口との距離、鼻の柱のつけ元を中心として下顎までの長さを半径とする円と、頬・眉・眉間との関係はどうか、などを検討する。
また、標本を形作っている平面や曲面の組み合わせの関係、各部分の高さ、深さ、厚さ等の関係を観察する。 以上の観察は、糸のついた錘、「コンパス」、定木などを補助としてするのもよいが、なるべく目測によってする。 2、少し硬い目によく練った粘土を、十字に組んだ心木やシュロ縄にしっかりと土づけする。 この基盤の土付けに軟らかい粘土を用いたり、つけ方がしっかりしていなかったりすると、しだいに土の量を増すに従って、崩れ落ちることがある。 はじめに硬い粘土を用い、仕上げに近づくに従い、軟らかい粘土を用いることは製作の一つのコツである。 3、標本の前額の厚さ、顎の厚さ、頬の厚さ、鼻の位置、および高さ、輪郭すなわち辺相などをよく観察して、概形を確実に捉えて、だんだんと土づけする。 標本からある軽い刺激をうけ、そのまま早く手出しをして土をつけてから標本と比較してみて無雑作に修正するというような態度は慎むべきである。 標本の十分な観察の結果、これで決して間違いないという確信を得た後、初めて手を下すようにする。 したがって製作に要する時間の大部分は観察に費やし、実際に土をつけている時間はその何分の一かでよいわけである。 4、土付けはなるべく指をもってし、指先の及ばない部分にはヘラを用いる。 粘土は主としてだんだんと盛り上げてつけ足して形を造っていく。 粘土を付けすぎて削り出して作ることはなるべく避ける。 削り出して作ったものには生気が現れ難い。 5、標本の観察も製作も前に述べた姿勢をくずさないで正面から見る。 額の曲面や鼻の形などを側面から観察して理解するごときは、立体を輪郭線によって解釈する平面観に基づくもので、それでは彫塑の基本たる立体観の把握はいつまでたってもできないことになる。 ゆえに、初めは、例えやりにくくても各部の厚さ、高さ等を正面から見て確実に把握し製作する修練をつまなければならない。 6、初めから眼や唇のような表情を持つ部分の感じを狙うことなく、底の方から大きな形をじりじり組み立てる気持ちで作って行く。 大体から部分へ、部分から細部への順序を誤らないようにすべきである。 7、こうしてだんだんと細部の製作に及ぼして完成する。 8、製作の時間と時間との間は、半製品を乾かさないよう、織布を掛けることを怠ってはならない。 9、これで一つの模刻ができたのであるが、この模刻は、ただ一回試みただけでは、要領を得るものではないから、時間のゆるす限り何回も繰り返し試みる必要がある。 そして回数を重ねるに従い、上達の跡を知ることが愉快なことである。 そのためには、製作がおわったならば、心木を探り出し、これを少し削り、シュロ縄と釘との結び目を切断して、前に削り取った木片の所に手を添えて、静かに台板から取り外して保存する。 ただし、石膏に取って保存するには台板からとりはずすには及ばない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.11.13 19:13:46
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