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2015年02月04日
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たったひとりの聖戦(1)
たったひとりの聖戦(2)


たったひとりの聖戦 3

オサマ・ビンラディン アフガンの荒野から孤独の荒野へ

ロバート・フィスク著
安濃一樹訳
           
    .
 カショーギと連れだってハルツームから北へ走った。白い砂漠が広がる地平には、ギザの大ピラミッドよりも小さくずんぐりとした王家の墓が、発掘の手を逃れたまま暗い影を落としている。
   
            .
 「ビンラディンは尊敬されている」。


 まるで晩餐会のホストを褒めるような口ぶりだ。


「事業が上手くいって、建設会社の従業員から政府の役人まで、みんな慕っている。貧しい人びとに援助を惜しまない」
  
             .
 それは私にもよくわかる。ハルツームポートスーダンを結ぶ幹線道路から、北の砂漠にある小さな村アルマティグにつながる道を完成させたばかりだった。アフガニスタンでゲリラの山道を築いたときと同じ小型ブルドーザーを使っていた。作業員の多くは、オサマに従いソ連と戦った戦士たちだ。
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 アメリカ国務省は、予想どおり、ビンラディンが行う慈善事業にありがたみなど感じていなかった。スーダンは「国際テロ組織を保護する国」であり、ビンラディンがスーダンの砂漠で「テロリストの訓練キャンプ」を営んでいると非難した。
 
              .
 アルマティグに着くと、そこにオサマ・ビンラディンの姿があった。金糸で縁取られたローブをまとい、ひさしの陰に座っていた。彼の前には村人が集まり、温かいまなざしを注いでいる。傍らには忠実なアラブ人のムジャヒディーンが護衛についていた。


髭をはやした戦士たちは微笑むこともなく、村人に静かな眼を向ける。一列にならんだ人びとが順番に、サウジから来た事業家に感謝の言葉を述べていた。今日、歴史上初めて、この貧しい村とハルツームを結ぶ道ができた。
     
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 内気そうな男だ。それが最初に受けた印象だった。高い頬と細い目。体は茶色のローブに包まれている。村の長老たちが一人ひとり礼をいうたびに目をそらせていた。感謝されるのが、どうにも居心地が悪いようだ。小さなチャドルを着た少女たちが踊りを披露しても、老師たちが徳行を讃えても、なにか笑顔がぎこちない。
    
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 カショーギに抱きしめられると、ビンラディンは両頬に口づけして応えた。外国人を連れてきたのは理由があってのことだろう。そうビンラディンは考えていたに違いない。カショーギの話にうなずきながら、肩越しに私を見ていた。
   
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  「ロバート、オサマ師を紹介しよう!」。


 子どもたちの歌声の中で、カショーギが叫ぶように言った。ビンラディンは背が高く、相手を見下ろすことになる。イギリス人の記者と握手するには都合が良いと感じていただろう。


「アッサラーム・アライクム」。


 手はしっかりと握られたが強くはない。確かに、山中で暮らす男に見えた。目が私の顔を探っている。痩せぎすで、長い指をしていた。その微笑みは(なんとも形容しがたいものだったが)邪悪な影を宿していなかった。
   
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 話をしましょう。オサマは、子どもたちの歓声を避けてテントの裏に来るように私を促した。 あの日のことを今になって思い起こしてみる。ビンラディンは残忍な犯罪者として、世界中が恐れる悪夢となった。あのとき彼の中に何か兆しは見られなかったか。


  あの男が引き起こした事件から、世界は永遠に変わってしまった。いや、もっと正確にいうなら、あの事件があったからこそ、アメリカ大統領が、世界は永遠に変わったと国民に思いこませることができた。あの日のビンラディンに邪悪なものが秘められていただろうか。かすかな証拠を私は探り出そうとする。       
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  テロリズムは否定すると彼は言い切ったが、何のヒントにもならない。エジプトの新聞が報道していた。あの男は数百人のアラブ戦士を引き連れてスーダンへやってきたと。ハルツームの各大使館に駐在する西側の官僚たちの間でも情報が回っていた。あのアラブ事業家が連れてきたアラブの「アフガン人」はアルジェリアでの聖戦に備えて訓練に明け暮れしていると。ビンラディンはこういう話をすべて把握していた。
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 「報道機関や大使館がいろいろとありもしないことを言っている」


と彼は切り捨てた。「私は建設技師です。農業の技術者でもあります。ここで兵士の訓練キャンプなどやっていたら、仕事にならないでしょう」。なるほど、その「仕事」には遠大な計画があった。アルマティグまで道を引くだけでなく、ハルツーム とポートスーダン を結ぶ新しい幹線道路を建設しようとしていた。旧道は全長一二〇〇キロだが、ビンラディンはそれを八〇〇キロに縮める計画を立てた。片道が車でわずか一日の距離になる。
       
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 サダム・フセインのクウェート侵略を支援したために、スーダンはアメリカから敵視された。サウジアラビアからも侮蔑された。スーダンは追いつめられていった。ビンラディンは、戦争に使った機材を投入し、だれにも相手にされない国を再建しようとした。
        
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  荒廃したアフガンの国土で同じことができなかったのか聞いてみたいと思った。しかし、オサマはなかなか話そうとしない。テントの裏に腰を据えると、ミシュワクの小枝で歯を磨き始めた。     
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岩波『世界』誌、〇五年一二月号掲載。
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Extracted from The Great War for Civilisation: the Conquest of the Middle East by Robert Fisk.    
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ロバート・フィスク。英『インディペンデント』紙中東特派員。ベイルート在住。北アイルランド紛争、イスラエルのレバノン侵攻、イラン革命、イラン・イラク戦争、ソ連のアフガン侵攻、湾岸戦争、ボスニア戦争、アルジェリア内戦、NATO軍のユーゴ空爆、イラク戦争などを取材。

著書にPity the Nation: Lebanon at War (1990.1992)など。最新刊にThe Great War for Civilization: The Conquest of the Middle East がある。



写真は1993年にロバート・フィスクがスーダンのアルマティグ村で撮影した
オサマ・ビンラディン。






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最終更新日  2015年02月22日 20時57分47秒
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