秋のサンティアゴ巡礼街道(7)
ニワトコの実が実る秋の巡礼街道
ブルゴスを発って2日目、快晴の秋のカミーノ
今日も又、何処までも一面の枯野が続く
オルニージョスを出ておよそ4キロのところ
果てしない大平原に
秋の青空に真っ直ぐに伸びる
十字架
(地元の人が巡礼者の無事を願って立てた十字架と巡礼者の長い影帽子)
聖地サンティアゴに向かって
西へ、西へと進む道、カミーノ
朝日を背に受けて
長い、長い影法師が、巡礼者の前を歩く。
秋の巡礼街道は
草木の実が熟す道でもあった。
濃い黒紫色に艶やかに熟して、
道端に、たわわに実っていた
セイヨウニワトコ(Danewort)
学名:Sambucus ebulus 別名;Dwarf Elder又はWalewort
スイカスラ科、ニワトコ属の多年草本。
花期:夏(7-8月)香りを放ち白い小さい花を房状に咲かせる。
原産地:ヨーロッパ、北アフリカ、西アジア
セイヨウニワトコは
Danewortの名を持っている。
その昔、イギリス人とデーン人(9-11世紀にイングランドへ侵入した北欧人)が
戦争をした時、デーン人の血から
この植物が生えてきたという逸話から
Danewortと呼ばれているという。
学名のサンバッカスsambucus(ニワトコ属)は、
ラテン語のsambucaに由来し、
古代ギリシャの楽器sambukeの名前から借用している。
そして、花や実や葉や根は
ワインやジャムに加工されたり、
髪の毛を染めるヘアダイにさえなってきた。
葉に含まれる毒性ある成分は、
消炎剤、利尿剤、発汗作用を促す薬、去痰薬、下剤などなど
その数々の薬効が人々の暮らしに役立ってきた。
中世の巡礼者が病で行き倒れになった時、
その沿道にある救護院では
このニワトコの薬草は、多くの人々を
救ったのかもしれない。
時空を超えて、
そんな想像をたくましくさせてくれる
ニワトコの実が
秋晴れの荒野の道端に
たわわに実を熟して
秋の陽光に光っていた。
枯れたアザミも
あの春に満々と咲いて、あたりを紫に染めた花々は
茶けた種子となって風になって飛ぶのを待っている。
巡礼街道の草花たちは、
次のいのちをその内に深く秘めて
来るべき冬の準備をしている。
《花の名一口メモ》
Danewort(セイヨウニワトコ)
(セイヨウニワトコは夏によい香りを放ちさく花。
樹皮や葉は汗臭い悪臭を放つ)
学名:Sambucus ebulus、別名Danewort
又の呼び名をEuropean Dwarf Elder(ヨーロッパの矮性ニワトコ)ともいう。
南、中央ヨーロッパ(イギリスも含む)、西アジア、北アフリカに
道端、林縁等に自生しているが、園芸種としても栽培されている。
生垣にも至る所でみられる。
(Samucus ebulusの実をアップ)
日本でエルダーとして紹介されているセイヨウニワトコは、
Sambucus nigraのことである。
この植物は、他の種類のニワトコと区別してコモンエルダーともいう。
コモンエルダーはDanewortに比べ
背丈も高く4~6mとなり落葉木である。
用途は装飾植物、薬草、染料、木工材など矮性ニワトコとほぼ同じであるが
矮性ニワトコの方がより強い毒性があり、
薬草としての効果もより強い。
煮たり、乾燥させたりすることで毒性を緩和している。
実などを過度に生のまま食べる事は危険である。
ニワトコ属に属する植物は、世界に広く分布し、
およそ25種ほどある。
日本にも
ニワトコ(接骨木)
学名: Sambucus sieboldianaがある。
本州から沖縄まで身近な明るい山野に
ごく普通に生えている。
背丈は2~5mの落葉低木で
夏に赤い実をつける。
(写真:日本のニワトコ
夏の葉(左)と初夏に咲く花
季節の花300より)
この日本の種がセイヨウニワトのコモンエルダーにより似ている。
同属の草「ソクズ」別名クサニワトコ
学名:Sambucus chinensis
本州から九州の林縁や川岸に自生し、花期7~8月で秋に赤い実をつける。
背丈1~1.5mで多年草。
このクサニワトコがどちらかといえば、ここで紹介した
サンテァゴ巡礼街道に生えている小型のニワトコに近い。
Danewort をセイヨウクサニワトコと訳した方が分かり易いようにも
思うけれど、植物の専門家でないので、その訳語は差し控える。
日本ニワトコの「接骨木」は中国名で、
枝や幹を乾燥させたものを「接骨木」といい、骨折や打撲傷に、
煎じてその汁を湿布として用いたことによる。
日本では古くはヤマタヅとかミヤツコギ(造木)と呼ばれ、
万葉集(巻2・90)には
「君が行き日が長くなりぬやまたづの迎えを往かむ待つには待たじ」
とあり、ここにヤマタヅというは、今の「造木」というという注釈がある。
日本においても古くから人々の暮らしの中で
共に生きてきたニワトコなのである。