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カテゴリ:☆星の彼方のレストラン
姉ヶ崎の緑ヶ丘団地入口の角にその店はあった。「びっくりチャーシュー」と大きな看板が掲げられ、通りからよく見えて目立っていた。
店の名前のとおりチャーシューに特徴があった。那須の無菌SFP豚を元にした脂肪の少ないロールタイプの品物で、その分厚いチャーシューが3枚入っていた。ごくあっさりした醤油ラーメンで、トッピングもメンマ、ネギと焼豚のシンプルな一品である。連れがここのラーメンがお気に入りだったので、かなりの頻度で立ち寄った。 餃子を一皿200円で出していた。小粒だが、噛むと中から汁が飛び出してきた。これを2皿とス-プ、新香、ご飯がついた餃子定食も人気があった。ランチタイムには数量限定で炒飯のサービスがあった。ジャーからよそう、炒飯というよりピラフのようなチープな一品だったが、これも早い者勝ちですぐに品切れになった。 年末になると、生麺パックを売り出した。年越しそばの替わりに、何度かそれをいただいた。 出産時に食事をしたシーンが強烈な印象でのこっている。連れあいが長子を無事に産んだあと、安心感からか急にお腹が減って、どこかで食べようということになった。産院に二人をのこし、母と義母を連れて入ったのがこの店だった。 母親同士は何かうれしそうに話をしているようだったが、私は適当な相槌で応じていた。どこか気持ちが上の空で、ふわふわしていた。メニューも見ずに、二人に合わせて頼んでもらった。自分の分だけ大盛がやってきたようである。 スープをすすると、その熱さが喉から食道にかけて本当にじんわり降りていくのが分かった。待ちに待ったように麺をすする。五臓六腑に染みわたるという言葉が、生まれてはじめて実感できた。太い枝が枝分かれし、枝分かれをくりかえして無限連鎖で葉脈のように広がっていく。熱い実質が、汁気が、塩分が、グルテン質が、葉脈状に拡散しながら、身体のすみずみまで行きわたっていく。焼豚をしっかりと噛んだ。自分と自分の連れと生まれたばかりの子を励ますように。力強く噛みしめた。メンマは小気味いいほどコリコリしていた。ていねいに噛みしめた。おいしかった。おいしいものが普通においしく食べられて、しかも自分の母親と彼女の母親と一緒に食べられて、嬉しかった。大変だっただろう連れのことを思った。ありがたかった。連れがその場で名づけたばあ1(ワン)とばあ2(ツー)二人の会話は、私の前を横切りながら続いていた。 4年ほど前だっただろうか。ここが閉店するとき、私は夜中一人で出向いていき、店の最後の客となった。子どもの誕生日についた同じテーブルの同じ席にすわり、最後の一杯をいただいた。 今現在その場所は「オリジン弁当」が入り、営業している。おかずの陳列ケースが並んだりして、中はすっかり変わってしまったが。目を閉じると、あの誕生の時の自分や最終日の夜の自分がフッと思い出されたりする。 「びっくりチャーシュー」 住 所:市原市姉崎 緑ヶ丘団地入口 営業時間:11:00-14:00/17:00-21:00 メニュー:ラーメン500/チャーシュー麺600/坦々麺600/餃子200/ 餃子定食500/(夏場)冷し坦々麺700/冷やし中華700/(税抜) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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このラーメンは思い出の味、自分は船の仕事をしていて入港すると先輩と昼にここへくるのが好きでしたよ。今はどこで営業しているのやら、、俺たちのびっくりチャーシュー。
(2021.01.11 21:44:27)
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