「神去なあなあ日常」 三浦しをん 映画と原作
先日の旅行の際、飛行機の中で見た映画「WOOD JOB」がとてもおもしろかったので、原作を借りてきました。わたしは映画も読書も好きなので、その両方を味わってどっちが勝ち~なんて、よく考えて楽しみますが、この映画も本も、どちらもなかなかおもしろかったですよ。映画の方のキャッチコピー(というのかな)「爆笑と感動と衝撃のノンストップ大木エンタテインメント」って、よくぞここまでうまく言えたもんだと感心してしまいましたよ。まったく、嘘はありません。文庫本の裏表紙にある短い解説のいい加減さは、このコピーを見習うべきです。どちらも基本的なストーリーは同じです。都会の無気力な若者が林業の研修生として山に入り、いろいろなことを経験し、恋をし、たくましく成長していくさまがユーモラスに描かれています。だけど実は、根本的なところが全然違います。まず映画の主人公勇気くんは、大学には落ち、彼女にはふられてしまいます。高校の卒業式の後、級友とカラオケで盛り上がりますが、それが終わると急激に自分の情けなさが身に染みて・・・そんなとき、偶然見かけた林業研修プログラムのパンフレット。その表紙にははつらつとした笑顔の美女が。ダメ男勇気くんは、動機はともかく、曲がりなりにも自分からその研修に参加することを決めて、はるばる出かけていくのです。携帯電話も通じない、山奥のそのまた山奥へ。しかし、原作の方の勇気くんは、こうです。「高校を卒業したら、まあ適当にフリーターで食っていこうと思っていた。」つまり、大学受験はしていないんですね。挫折も味わっていないってことですね。「かといって、ちゃんと会社に就職するのも気が進まない。」就職活動で挫折したわけでもない。「でもさ、何十年もさきの将来なんて、全然ピンと来ないじゃん。だから、なるべく考えないようにしてた。」あらら、こりゃ筋金入りのチャランポラン男ですよ。そんな勇気くんに、高校の担任の先生が、「おう、先生が就職先を決めてきてやったぞ。」そしてお母さんまでが「着替えや身の回りの品は、紙去村に送っておいたから。」そうやって、本人の知らないところで先生とお母さんに、林業の研修制度に勝手に応募されて、出て行かざるを得ない状況に置かれてしまうのです。そして、先生に新幹線に押し込まれるように乗って、はるか西の山奥へ。ほらね、同じ林業の研修に向かうのでも、そのきっかけが全然違うでしょう?原作の方では、そんな経緯で林業をすることになった勇気くんの心の変化が、あまり詳しく書かれていないのです。チャランポラン男ですから、もっともっと泣いたりふて腐れたり投げやりになったり、いろいろな葛藤があったはずだと思いますが、それがあまり詳しく書かれていないのは正直、物足りません。しかし、もちろん原作の方が映画の何倍も見事に描かれているものがある。それは、自然の美しさ、荘厳さ、そして自然と共に生きることの厳しさ、いやこんな言葉じゃ言い足りない、山にいる神様との付き合い方とでも言ったらいいのかな。この本を読んだら山には絶対に神様がいるんだと、誰でも信じてしまいます。また、山に暮らす人々の人間関係がすばらしいです。もちろん、現実にはもっと汚いことやいやなこと山ほどあるのが人間てもんだと思うけど、もうほんとに体中の隅々まで洗い流されるようないい気持の人々でした。それから、犬好きの私は、この村で飼われている白い犬「ノコ」にも、ぐっと来てしまいましたよ。ノコに比べたら、うちのわがままな王ちゃま黒パグなんて、犬じゃないね、まったく。というわけで、続編の「神去なあなあ夜話」を読むのが楽しみです。