【前おきを少々】本日の日記は少々長いです。覚悟してお読みください。少しでも読みやすいようにと、小見出しを挟みました。また、我が愛する多くのBARのマスターやバーテンダーにとっては、少々きつい内容となっています。けれど、これはBARを愛してやまず、バーテンダーという職業を心から尊敬する一人のBARファンの言葉と思い、お聞き願えれば幸いです(以下、本文へ)。
人は何のためにBARへ行くのか
僕にとってBARがない人生も、BARがない街も、考えられない。だから、BARは僕にとって、永遠に居心地の良い場所であってほしい。酒呑みはなぜBARに行くのか? 単に酒を飲みに行くためでも、酔っぱらうためでもない。
僕が思うには、酒呑みがBARに通うのは、バーテンダー・バーテンドレスと会って話をしたいがためであり、彼らのつくる美酒を味わいたいがためである。そして、非日常空間で日常を忘れ、日々の疲れを癒したいがためである。
モルトウイスキーを片手に、そんな「独り言」を頭の中で反芻しながら、買ったばかりの月刊誌「男の隠れ家 2007年1月号」(あいであ・らいふ刊)を、家のリビングでパラパラとめくっていた。
思わず目にとまったやりとり
すると、ある文章に思わず目が止まった。1月号は「東西146軒、男のくつろぎの空間 大人の酒場」と題したBAR特集である。今や女性もどんどん一人でBARを楽しむ時代に、「男の…」と限定する表紙のコピーのセンスにはがっかりさせられるが、内容はそれなりに充実している。
目が止まったのは、その特集のなかで、BARをこよなく愛する二人、切り絵作家の成田一徹氏と作家の森下賢一氏による対談。二人はBARという空間での楽しみ方をあれこれ語り合っているが、その末尾あたりに、次のようなくだりがあった。若干長いけれど引用させていただく。
森下 ただチャージといって、諸外国にはない、座っただけでお金を取られるシステムはバーが普及する障害になっている。残念だね。
成田 同感です。バーは僕にとっては「ハレの日に行く場所」ではなく、ごく日常の一部。できるだけ安く飲める“お得感”が大事ですね。
森下 その点では、日本のバーはまだ“特別な場所”なのかな。ただ最近は都市部ではなく、郊外にもいい店は増えていて、そういうバーではチャージをとらない所も多い。ご近所にそんなバーがあれば、純粋にお酒を楽しむことができ、きっと人生に幅が生まれますよ。
いまだ国際スタンダードになれぬ訳は…
このくだりを読んで、僕も思わず、「まったく同感、同感。その通りだ」と相づちを打った。日本でバーが、いまだ国際スタンダードにはなれず、なお「特別な場所」と思われ続けている最大の原因は、僕もこの「チャージ」という不可解なシステムにあると思っている。
欧米のBARには、僕の知る(訪れた)限り、ホテルのBARなどごく一部を除いてこのようなシステムはない(パブでは、キャッシュ・オンがほとんど。任意のチップがあるのみ)。
BARでは酒代がかかる。これは当たり前である。美味しい酒やカクテルにはそれなりの対価が必要だ。お値段は、美味しい酒を造った人への感謝であり、旨いカクテルをつくってくれるバーテンダー・バーテンドレスの技術への感謝(対価)である。
その値段に見合う、納得できる酒やカクテルであれば、僕は正当な対価として喜んで、支払う。例えば、ジン・リッキー。普通のBARでは、まぁ、700~800円くらいから1500円くらいの間だろうが、もし、素晴らしいバーテンダーがつくる訳(わけ)ありの、特別なジン・リッキーなら2000円払っても惜しくない。
不思議で、不可解なシステム
しかし、日本のBARでは酒やフードの代金とは別に、もう一種類、「チャージ」という料金を取るところが多い。誰が始めたのかは知らないが、成田氏や森下氏同様、僕も以前から、この「チャージ」という、日本独特の料金システムを不思議に思ってきた。
だが、なかには「チャージ」を取らないBARもあるから話はややこしい。つまり、「チャージ」はBAR業界に必要不可欠な課金ではなく、経営者の裁量で、取るか取らないかや、いくらにするかを自由に決められる料金なのである。
しかし「チャージって何か?」と尋ねられると、これまた答えるのは難しい。「席料」だという言い方をする経営者もいる(一見都合のよい言い方だが、スタンディング=立ち呑み=でもチャージを取るBARもある)。そもそも、BARが席を用意することに客が対価を払う義務はあるのか、理はあるのか。僕ははなはだ疑問だ。
「チャージ」はそれともサービス料、すなわちおしぼり代やミネラル代、氷代? あるいはグラスが割れた時の保険か? バーテンダーの技術料か? トーク代か(チャージに見合うトークができる人は、そういないぞ…)。
一般的にはチャージ=サービス料かと思われがちだが、なかにはチャージを取りながら、10%~20%のサービス料を別に取る店まであるから、またよく分からない。経営者によって、チャージというものの概念(定義)がばらばらなのが原因だろう。余談だが、雑誌では「ノー・チャージ」と紹介しておきながら、会計の際に客からちゃっかり300円ほどのチャージを取っている老舗BARもある。取りたければ堂々と取ればいいのに、裏でこそこそやる商法はいただけない。
BAR側にも言い分はある
昔、名古屋のあるBARに行ったときのこと。名古屋ではチャージを高めにしてその分、1杯の値段を安く設定している店が多いが、この店もそうだった。チャージは2000円だったが、1杯の値段は600~700円からという設定にして気軽にお代わりしやすくしていた。「なぜこんなシステムに?」と聞くと、「名古屋のお客さんは1杯で粘るんですよ。だからある程度チャージをもらわないと商売あがったりで…」とそのマスター。
大阪のあるBARのマスターはこう言った。「チャージをある程度高くしないと、客層が荒れるんですよ」。確かに、ノー・チャージだと、懐がさびしい若者が多く集まって、店の雰囲気を変えてしまうかもしれない。
しかし、チャージを取らないBARはその分サービスを手抜きしているのか。チャージを取らない店は必ず客層が荒れるのか。それはまったく違う。例えば、大阪ミナミのBar「M」などは、接客も行き届いているし、客層だって、ばか高いチャージを取るBARと比べたらよほど良質である。
チャージを取って何も出さぬ店
チャージを取るBARでは通常、「お通し」という1品のおつまみを出す。この「お通し」に何を出すかや、どういう工夫をしているかで、そのBARのこだわりやホスピタリティ、すなわちサービス度も分かる。大阪キタのBar「C」などは、毎回とても手の込んだ素晴らしい「お通し」が出る(ちなみにこの「C」はチャージ500円で、サービス料はとらない)。
なかには、チャージを取らないのに1品を出すBARもあるが、これは客としては少し心苦しい。一方で、チャージやサービス料を取りながら1品も出さないというBARもあるが、これには、ただ経営者の神経を疑うしかない(この店の場合、いったい何の対価なのだろう?)。
僕は、BARは基本的にはお酒やカクテルの味やクオリティで勝負すべきで、チャージというサービス料が必要なら、お酒やカクテルの価格に反映させるべきだと思う。サービスに見合うお値段なら僕は喜んで対価を払おう。そして、どうしても「チャージ」というサービス料が必要ならば、1000円までに(できれば500円以下に)抑えてほしい(1品くらい用意するのは普通だろう)。
チャージに見合う満足が得られるなら…
チャージ=サービス料だったとしても、1000円を超えるチャージを取るBARには、基本的に僕はあまり行かない。そのBARやそのマスターがどんなに有名でも、技術がとても素晴らしいという噂があっても、あまり興味はない。銀座や北新地などには、1500円~2000円もの高いチャージを取るBARもある。
かつて、銀座でチャージがバカ高いBARにお邪魔したことがあるが、マスターは一見の客に、格別愛想が良いわけでもなかった。マスターから話しかけてくることも、お会計の時まで一度もなかった。いくら技術は凄くてもその高いチャージ(別途サービス料10%!)に見合うとは、僕にはとても思えなかった(僕は、2杯頂いて7000円近く支払った)。ただし、チャージが少々高くとも、その額に見合う納得できる接客やサービス、味とクオリティがあるBARならば、例外的に時々お邪魔している店もある。
論外とも思える高いチャージを取る店に限って、接客やサービスが悪いことが意外と多い。常連だけにこびへつらい、マスターは気の利いたトーク一つすらできないということも多かった。「肩書きで飲む」客ばかりを大事にするBAR(こういう店に限ってチャージは高い)もあるが、そういう店には一度は行くことはあっても、「次」はない。
その1杯に正当な「対価」反映を
結論として、僕が思うのは、BAR(バーテンダー)は、提供するお酒のクオリティとカクテルなどの酒づくりの腕や知識、トークを含む接客、内装などの雰囲気づくりで勝負してほしいということだ。
それに対する対価(技術代と材料費、接客のレベルの高さなど)は、その商品である1杯、1杯の値段に反映させてほしい。日本のBARは限りなく、「チャージ」などという不可解な言葉と料金システムから解放されるべきだと思う。
もちろん経営者としての気持ちも分かる。おしぼり代だってかかる、グラスも割れることだってある、日持ちのしない在庫だってある、光熱費もかかる、トイレの電球だって切れる、従業員にボーナスも出さねばならない。考えれば、BAR経営は大変だ。僕もその辺は理解できる。
ならば、10~15%くらいのサービス料を堂々ととればいいと思う。サービスに、なによりも自信があり、サービス料を客からもらっても当然だという自負があれば、ゆめゆめ「チャージ」とは称さず、はっきり「サービス料」と言って徴収すればよい。
「チャージ」という説明不能な、曖昧な言葉に頼っている限り、日本のBARは永遠に国際スタンダードにはなれないと僕は信じている。
【おことわり】1枚目の「男の隠れ家」の表紙写真以外の5枚の写真は、記事内容とは直接関係ありません。
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Profile
うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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Free Space
▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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