サヴォイ・カクテルブックと言えば、今さら改めて説明するまでもありませんが、1930年に出版され、今では世界中のバーテンダーの、おそらく8割以上は持っている「バーテンダーにとっては最初の教科書(バイブル)」のような本です。
著者のハリー・クラドック(Harry Craddock)は、1875年、英イングランド生まれ。22歳で米国に渡り、ニューヨークなどでバーテンダーとして活躍していました。しかし1920年、禁酒法施行を嫌って米国に見切りを付けて帰英。ロンドンのサヴォイ・ホテルで職を得ます。
そして1925年には同ホテルのチーフ・バーテンダーとなり、そのさらに5年後、この歴史的な名著を出版するのです。同著には約880種類のカクテルが紹介されており、スタンダード・カクテルをつくる場合、バー業界では今日でもまず、このサヴォイのレシピが「出発点」になっています。レトロな挿し絵も楽しく、ぱらぱらとページをめくっているだけでも、時々思わぬ発見があります。2002年には待望の日本語版も出版されました。
ただ、私がずっと気になっていたことがありました。それは、初の日本語版のベース(底本)となったのは初版本なのか、それとも、その後1952年や1965年、1985年に出された改訂版なのかどうかという点でした。改訂版には初版本以降に誕生したカクテルもいくつか収録されています。「底本」の時期は本に収録されているカクテルがいつの頃から存在していたのか、その時期を推定する重要な手がかりになります。もし初版がベースであれば、収録のカクテルは少なくとも1920年代には登場していたことになります。
さて、私は先般、幸い、このカクテルブックの貴重な初版本を手に入れることができました。そして、その収録内容について、日本語版の内容と詳細に比較検討してきました。その結果ですが、日本語版は、ほぼ完全に(下の【追記1】ご参照)初版本を下敷きにして翻訳・制作されていることが分かりました。
現在も世界中のバーで愛され続けているスタンダード・カクテルのほとんどは、1930年までに誕生したものです。言い換えれば、モダン・カクテルの基礎はこの1900~1920年代につくられたと言っても過言ではありません。日本語版を持っている皆さんは、1920年代のカクテルのレシピを確実に知ることができるのです。小さなことかもしれませんが、クラドックが生きた同時代のレシピが味わえる幸せに、改めて感謝したいと思います。
【追記1】「ほぼ完全に」と書いた理由は、以下の通りです。サヴォイ・カクテルブックの初版には約880種類のカクテルが収録されていますが、2002年の日本語版ではなぜか、初版の「ADIDTIONAL COCTAILS」(P282~283)という2ページにある以下の9つのカクテルが抜け落ちているのです(「うっかり」忘れたのか意図的なのかは不明ですが、とても重要なカクテルが含まれているので、改訂版ではぜひ収録して頂けるよう願っています)。
<日本語版では未収録の原本(初版)収録カクテル>バカルディ・カクテル(Bacardi Cocktail)、バンブー(Bamboo)、ブラックソーン(Blackthorn)、ブックセラーズ・スペシャルプライド(Bookseller's Special Pride)、デヴォンシャー・プライド(Devonshire Pride)、ゴールデン・ドーン(Golden Dawn)、ガン・コットン(Gun Cotton)、ジャージー・ライトニング(Jersey Lightning)、ルルズ・フェイバリット(Lulu's Favorite)
【追記2】ちなみに、現代でも生き残っているスタンダードのうち、このサヴォイ・カクテルブック・初版本が「初出資料(文献)」と確認されている主なものは、以下のようなカクテルです。
アヴィエーション(Aviation)、バーバラ(Barbara)、ビトウィーン・ザ・シーツ(Between the Sheets)、ブラッド&サンド(Blood & Sand)、チェリー・ブロッサム(Cherry Blossom)、シカゴ(Chicago)、ミリオン・ダラー(Million Dollar)、ミスター・マンハッタン(Mr Manhattan)、ニューヨーク(New York)、ニコラシカ(Nicolaski)、パリジャン(Parisian)、エル・プレジデンテ(El Presidente)、シャムロック(Shamrock)、シャンハイ(Shanghai)
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Last updated
2022/02/23 10:03:58 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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