【カクテル・ヒストリア第2回】
「冷たくない」のが普通だった
バーに冷凍庫や製氷機が当たり前のようにある今日、私たちは当然のように冷たいカクテルが楽しめる。しかし氷が貴重品であった時代、カクテルはさほど冷たい飲物ではなかった。
ドイツのリンデ博士(写真左)が初めて本格的な業務用製氷機を考案・発売したのは1879年。欧米の飲食業の現場で製氷機が普及し始めたのは1900~1910年代以降である。バーなど飲食の現場ではそれまで、冬場に凍結する川や湖から切り出した氷を使っていた。
木箱での輸送中、保冷に威力を発揮したのは、意外かもしれないが、木材を削った際に発生する「おがくず」だった。その保冷力はとても優れていて、開国直後、日本の外国人居留地で使われていたのは、当初は遠く米国東海岸・マサチューセッツ州の湖から船で運ばれた氷だったという。
もちろん当時の氷は高価だったため、カクテルのため好きなだけ使うなどはとてもできない。従ってマティーニやマンハッタン、ロブロイ、ギムレットなど草創期のカクテルは、さほど冷たくない状態で提供されるのが当たり前だった。
1920年以前のカクテルに生卵(卵白や卵黄)やハチミツを使うレシピが目立つのはなぜなのか、私自身、昔は不思議に思っていた。しかし後に、キリっと冷えたカクテルが簡単には叶わなかった時代に、少しでも飲みやすい味わいを創ろうというバーテンダーならでは工夫だったと知って納得した(写真右=リンデの考案した人工製氷機)。
日本国内では、1873年(明治6年)以降、函館などに出来た天然氷の製氷場からより安価な氷が供給されるようになったが、貴重品には違いなかった。日本に初めて英国製製氷機が輸入されたのは1883年。バーの現場に業務用製氷機が普及し始めたのは1920年代である。
現代では、「ぬるいカクテルなんてあり得ない」と思いがちだが、20世紀初頭の人々がもし現代にタイム・スリップしたら、「なんでこんなに冷たすぎるカクテルを飲んでいるんだ!」と驚くに違いない。
※この稿の執筆にあたっては、石倉一雄氏の一文「慶応三年のパリ万博:氷はいかにしてカクテルに投じられたか」(2014年、社会評論社刊「東京府のマボロシ」内に所載)から貴重な情報を頂きました。
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Last updated
2021/06/11 12:29:15 PM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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