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カテゴリ:ばくばく冒険小説
恩田陸の〈神原恵弥シリーズ〉の最新作を読んだ。
○ストーリー 外資系製薬会社の特別研究員・神原恵弥は医薬品の見本市に参加するために東西文化の交差点・T共和国を訪れる。恵弥はそれ以外にも,高校時代の同級生と再会すること,究極の鎮痛剤〈FD〉を探すこと,行方不明の化学者・アキコ・スタンバーグを捜すこと,そして謎の麻薬商人〈アンタレス〉を捜すことを計画していた。恵弥は謎の人物の招待に応じて,T共和国を一周するミステリーツアーに参加する。そこで彼が見出したこととは? ------------ 2001年の「MAZE(メイズ)」,2003年の「クレオパトラの夢」に続く,10年以上ぶりの〈神原恵弥シリーズ〉の第3作目となる。「六番目の小夜子」をはじめ様々な作品をリンクしている〈関根ファミリー〉を除くと,恩田陸作品の中では少ないシリーズ3作目となる。 主人公の神原恵弥は,新種のウィルスのハンターで,化学者で山師的な仕事をしている。さらに彼はホモセクシュアルで,派手な服装をしていて,いわゆる”オネエ”キャラクターだ。こうした人って,ドラマやテレビの中,あるいはそうした店では存在するけど,ビジネスの世界では無いと思うんだよなあ。 普通に仕事をする上では,自分の性癖が少数派であることを積極的に披露する意味が分からない。この辺り,恩田陸って80年代風少女マンガの感覚のままだ。 ------------ この作品では,これまでの2作で登場した天才参謀・時枝満,主人公の妹で弁護士の和見,国立感染症の研究員・多田,その妻・惠子と,印象的だったキャラクターが再登場する。 さらにそれ以外にも,女性研究者のアキコ・スタンバーグ,考古学者のアリス・レミントン,元経産省の長谷川美津子,警察庁キャリアの知念と,ルックス・知性・出自・職業が優れたまさにエリートというキャラクターが登場する。 このキャラクター設定の濃さも恩田陸の特徴で,個人的には80年代バブルの残滓ではないかと疑っている。 あまりにも肩書きが立派なキャラが多いので,ミステリーツアーのドライバー・エディは新鮮だ。彼は日本企業で働いている測量技師で,東西文化の交差点の国らしく様々な民族の混血児だ。一見普通の穏やかな青年なのに,平気な顔をして人を殺して埋めようとする。どこにも所属していないのに誰よりも能力が高そうなエディが,一番魅力的だった。 ------------ 恩田陸のもう1つの特徴は,作品のラストが拡散して物語が拡散したまま終結するパターンが多いということだ。この作品も,行き当たりばったりのミステリーツアーの展開となり,伏線が回収されないまま終わる可能性が高かった。 ところが今回は,ファンタジーや伝説に逃げず,きちんと謎が解かれる。旅路の先にパズルのピースが揃い,複数の謎に解決がつく。さらに主人公の新しい展開を予測させて終わる。 やや急ぎ足のラストではあったが,これまでの〈神原恵弥シリーズ〉で一番スッキリ終わったのではないだろうか? 恩田陸,まだまだ頑張ってもらいたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.08.30 07:45:08
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