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カテゴリ:ばくばく冒険小説
超実力派の新人SF作家・宮内悠介の話題の作品を読んだ。
○ストーリー 南アフリカでは再び紛争が起き,国は何年も内乱状態となっていた。そんなヨハネスブルグで育ったスティーブとシェリルは,バラックでたくましく生き延びていた。だが彼らのアパートでは,毎日決まった時間になると天使たちが堕ちてくるのだった。スティーブたちは,天使との会話を試みるのだが? ------------- あれ?いつの間に?という驚きが大きい。 SFやミステリーの作品では,中心となるプロットが面白くても,小説としては不自然さが目立ってしまって,集中できないという残念なことが多い。 SFでもミステリーでも作家となるまでのマニアは,そのジャンルに片寄った生活をしていて,そうした仲間としか交流しないで何年も過ごしていることが多い。また読者の共感を得やすいということで,奥手で人付き合いが不得手な主人公というステロタイプが登場する。僕はこれが大嫌いだった。 この作品の主人公たちはまったく異なる境遇で育っている。短編の舞台も,南アフリカ,アフガニスタン,イエメンと,日本からはるかに遠くで,全く異なる舞台だし,主人公たちはギリギリの状況でいかに生き残るかだけを毎日考えている。 いつの間にか,自分だけを見ているのではなく,世界を見据える主人公のSF作品が生まれていた。 ------------- この作品は,ゆるい連作短編集となっている。後半はとくにルイ,アキトという日本人,日系米国人が登場するので,連作の空気が強い。 個人的には,ロボットDX9の登場で,シリーズ感は出ているので,それ以上の登場人物の重複は不要だと思っていたので,この辺り余計だとしか思わなかった。 割りとシリーズっぽくない「ロワーサイド」が好みだった僕としては,似たようなスラムの描写にはちょっと辟易した。 とは言え,改めて言うけど,すごい才能の人が現れたもんだ。 ------------- 各編について簡単に感想を述べる。 「ヨハネスブルグの天使たち(City in Plague Time)」:内乱が続くヨハネスブルグで育ったスティーブとシェリルが住んでいるアパートでは,定期的に天使たちが堕ちてくるのだった。少年たちは,なんとか天使たちと会話をして,毎日の落下を止めさせようととするのだが?・・・状況を描写する乾いた筆力に圧倒された。その後に高層ビルから落下を繰り返す女性型ロボットという場面が現れ,急にファンタジーめいた状況になるが,それはきちんと説明がされる。映画『第9地区』はヨハネスブルグを舞台にしていて,ハリウッドに衝撃を与えたが,そうした土地で日本のSF作品が,しかもリアリティを持って描かれるとは本当に驚いた。 「ロワーサイドの幽霊たち(Our Belief Eternity)」:行動分析学の研究者は,9.11以降も人々の中から消え去らない喪失感を払拭するために,大量のロボットに現地にいた人々の記憶を写し,事件をぎりぎりまで再現することにする。だがその結末は?・・・インタビューを連ねるような形式なので,途中まで伝記か雑誌記事のような印象だった。あまり前の短編とは関連が無いのか?と思っていたら,ラストは??? 「ジャララバードの兵士たち(The Frequency of Silence)」:ジャーナリストのルイは,ある村で不自然な事件が起きたことを突き止める。だがそれを彼に伝えた男は,翌日死体で発見された。ルイとボディーガードに危険が迫る。そして・・・南アフリカが舞台の第1短編も驚いたが,今度はアフガニスタンだ。とにかく日本SFでは描かれたことない地域だ。暴力シーンが直接は描写されないので,逆に恐ろしくなる。最後の偶然は要らないかな。自動歩兵としてのDX9が登場する。 「ハドラマウトの道化たち(To Patrol The Deep Faults)」:イエメンに左遷された米軍の作戦指揮官・アキトは,世界遺産の遺跡の中で共生している人々の排除を命じられる。彼らのリーダーは,全身にヤケドの痕が残る女性だった。説得に失敗したアキトたちは,計画の実行へと移るのだが?・・・またまたマイナーな土地で物語がつむがれる。主人公はアキトはかなり自己破滅的な精神状態になっているのだが,その彼を冷静に観察しているルイという青年が登場する。DX9に人格転移が出来る?なんでそんなに優秀なんだ??? 「北東京の子供たち(How We Survive, in the Flat (Killing) Field)」:東京の北部をかたどる復興団地群。だが10年以上たち,団地リバイバルはかつてのニュータウン構想のように,色あせ,人々は精神的に病みつつあった。セイとリノは,大人たちが毎晩繰り返しているロボットでの自殺の代償行為を止めさせるが,それは逆に・・・物語は最後に日本にやってきたが,歴史,建築,民族の問題を描いてきたこの連作短編集らしく,そこは九龍城のようになった団地が描かれる。この作家にかかると東京でさえこうなる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.03.13 21:45:37
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