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りゅうちゃんミストラル

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2005.05.27
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テーマ:お勧めの本(7219)
カテゴリ:読書
今朝、家を出ようとするとそこにランドセルがあった。
白い帽子もあった。

私は誰か小学生がいじめにあっていると勝手に想像した。
登校途中で意地悪な輩がランドセルを隠してしまったのだろうと。
正直のところこれが財布ならネコババしたかもしれない。
しかし私にはランドセルが必要ではなかった。
仕方なくランドセルを開けて名前と電話番号を確認した。
電話をかけてみる。

電話に出たのは若い女性だった。
多分ランドセルの持ち主の母親なのだろう。

私が事情を話すと、すぐに彼女は状況を理解した。
その話によれば、これはいじめではないということ。
ランドセルの持ち主は障害を持っていて、あちこちに持ち物を置いていたらしい。
本人は近くの線路にいるところを発見された。

私は母親に近くのバス停で待つことを伝え、ランドセルを持って家を出た。
私より先に母親は待ち合わせ場所であるバス停に来ていた。
彼女は何度も私に礼を言った。
そして手に持っていた紙袋には酒が入っていた。新潟の地酒だという。
私への礼のつもりらしいが、残念なことに私は今酒を受け付けない。
その申し出を断った。
彼女は靴のことを気にしていた。
ランドセルの持ち主は靴まで脱ぎっぱなしだったようだ。
靴は近くに落ちていた。
道で別れるまで彼女は何度も私に向かって礼を言った。
顔を見ると涙ぐんでさえいた。
多分彼女の今日は、朝から大変だったのだろう。
その様子は痛々しささえ感じるくらいだった。
私は「事情はわかりませんが大変ですね」と言うしかなかった。

その時、私は何を思ったのか彼女に「錦繍」(宮本輝)を薦めた。
彼女は宮本輝の名前は知っていたが「錦繍」は知らなかった。

長い前置きになったが、私がこうして今「錦繍」を日記で紹介するのにはこうした訳がある。
「錦繍」は珍しい書簡体の小説だ。
過去に事件があって別れることになった元夫婦が偶然蔵王で会う。
そして手紙をやり取りするという内容になっている。
ネット社会では手紙を書くことすら珍しいことかもしれない。
長い手紙が二人の間を行きかう。
当然二人が一緒に暮らしたこと、その前の出会いが手紙の中心になるが、
過去を暗く語るだけではない。
未来へ向かっての前向きなことも手紙には書かれる。

この小説の後半、元夫は今一緒に暮らしている女性に今までの手紙を読ませる。
彼女は過去の事件など知らないし、手紙の相手も知らない。
そして手紙を読み終わった時彼女はこう言うのだ。

「うち、あんたの奥さんやった人を好きや」

私が彼女にこの小説のことを話したのは、
小説に出てくる女性が再婚してやはり障害のある息子を持つという内容を思い出したから。
考えようによっては浅倉卓弥の「四日間の奇蹟」とか、
東野圭吾の「トキオ」を薦めたほうがよかったかも知れないが、今朝は何故か「錦繍」が頭に思い浮かんだ。

この小説では何も問題は解決しない。
奇跡がおきて障害がなくなるわけではないし、元夫婦が再婚に向かうわけでもない。
しかしこの小説は多くの人に支持されている。
(少なくとも私はそう思っている)

それは、奇跡がなくても何かをこの小説から読者は学ぶから。
障害を持つ息子を育てながら、登場人物の女性は強く生きる。
「お嬢さん」から「強い母」への変身こそがある意味この作品のヤマ場でもある。
何通もの元夫へ書いた手紙の中で、彼女は自分自身をも考える。
すぐに結果を求める現代では考えられないくらいの手紙のやり取りで、
彼女は成長する。そして読者もまた彼女の成長を考えつつ、
自らの状況を再確認するのではないか?
そして、「こうした話は実はこの世にはあるのかもしれない」ということもあるだろう。

この小説を一言で表現すると、「ハッピーエンドではない再生の物語」だ。

今日会った女性は母親として今後どのような苦労が待っているだろうか?
私が薦めた「錦繍」を読むかもしれない。
読んでモーツァルトを聴くようになるのかもしれない。

逆に今日のことがあって私の言葉などすぐに忘れてしまうかもしれない。
この親子の今後が気になる今朝の出来事だった。


追記

この小説では、こんなセリフもある。

「生きていることと、死んでいることとはもしかしたら、同じことかもしれない」

私が思い出すのはベストセラーになった「ノルウェイの森」(村上春樹)での、
同じような一文だ。

「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」

今でもこの二つの言葉について考えることがある。




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最終更新日  2005.05.27 12:53:10
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