愚者のエンドロール:米澤穂信
「氷菓」(感想)に次ぐ、省エネがモットーの奉太郎ら古典部が活躍する、シリーズ第二弾。タイトルを見たときからワクワクしたのは「これはきっとあの有名女性作家の作品に関係あるに違いない。」と思い込んだから。それが正しかったかどうかは、あとがきにハッキリと記されていました。「○○○○○は実は□□□です。」結果はどうあれ、私のワクワク感が消えることはありませんでした。自分の高校生の頃を思うと、自意識過剰だし、見かけばかり気にして、とても不器用な生き方しかできなかったような気がします。もしも今の精神状態で高校時代に戻ったらうまくやれるのに、と思うこともありますが、この作品に登場する高校生達は、ちょっとそんな感じ、何だか老成したところがあります。そしてそれが独特の雰囲気を出しています。学園ものはもとから好きな私ですが、そういうところも気に入りました。文化祭に出展するためにあるクラスで映画を製作していました。テーマはミステリー。ところがこれから解決編というところで脚本家が倒れたため、撮影を中断したままで締め切りが迫っていました。そこでまとめ役の入須から依頼され、奉太郎たち古典部員は、結末についての関係者の推論を聞くことになります。ところが、少ない手がかりから打ち立てられた彼らの推論は、一つ一つ否定されていきます。この作品はアントニィ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」のオマージュとして書かれていますが、その推論たるや、余りに単純だったり、物足りなかったり、かなり突飛なものだったりします。名言も飛び出したし……。まあ、普通の高校生ですから無理も無いところ。そして、ミステリ好きな人にはたまらない言葉がたくさん出てきます。密室、倒叙、ノックスの十戒、それに、館(?)の見取り図はあるし、設計者の名前が……だし。(ノックスの十戒とは、ロナルド・A・ノックスが著した、推理小説を書くにあたっての十の戒めで、たとえば、犯人は物語の始めのほうで登場している人物でなければならない、とか、探偵自身が犯人であってはならない、とか、読者の知らない手がかりによって解決してはいけない、など、つまり推理小説はフェアプレイでないといけないという内容です。既に古臭くなって、時代を感じさせる物もあります。)この作品は、チャットルームから幕を開けます。そして最後もチャットルームで終わります。初めは誰が会話しているのかわからないのですが、ハンドルネームや会話の内容から、最後には誰だか類推することができます。「あ・た・し♪」さん、やっぱりいいですね。登場人物では、男言葉で話し、女帝とあだ名される入須さんが魅力的ですし、脚本家さんの気持ちもよくわかりました。(私はミステリ好きなんですけどね……)でも、今回は、古典部のメンバーがしっかりと自分の得意な観点から、自分なりの考えを示すところが一番よかったかな、と思います。この次が楽しみになりますし……。ほろ苦さも含んでいるものの、読後感もとても爽やかな作品で、ますます米澤穂信さんから、目が離せなくなりそうです。 愚者のエンドロール :米澤穂信