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カテゴリ:銀の月のものがたり
ある夜。
ラボ、痛覚遮断、関節増設、の話を聞いたら 突然自分の腕に力が入らなくなった。 力を入れようとすると、がくりと崩れるリアルな感触。 ああ、そこにいたんだ、と思った。 ---------- 「ほら、痛くないでしょう? 僕らは動物達にそんなにひどいことはしてないんですよ」 若い声が見下ろしながら笑う 被験者を動物と呼ぶことにも だんだんと目的から乖離して 意味のわからなくなった研究にも ほとほと嫌気がさしていた 彼らを逃がそうとして 捕まった おやおや嫌ですね、僕らはそんなにひどいことはしてないんですよ。 あなたは知識があるからわかるでしょう そうだ、ご自分で経験してみたらいい そしてお決まりの痛覚遮断手術。 執刀者が未熟で各所に焼けるような痛みが残る この下手くそめ。 右脇を床に縫いつける三叉の鉾 私は転がったまま残った目だけで声の主を見上げる お 前 だ よ 話すことはない 舌を切り取られた 魔法を紡げないように 手の指も ご丁寧に関節ごとに皮一枚残して分断された 魔法陣を作れないように だらりと垂れて まるで糸のたるんだマリオネット 目は片方だけ残された 不様な自分の姿を見ることができるように 悦にいった声が笑う やはりこいつは変態だ。 私はゆっくり首をめぐらし 似た姿の同士たちが床でもがいているのを見る 嬉しそうに声が笑う 惨めですね、あなたほどの研究者がそんな姿で もう人の姿ですらない 私はそれを聞いていない 彼のことも自分のことも もう興味はない 指は動かせない 肩からざらりざらりと動かすしかない それで陣を描くことはできるだろうか 足も分断されていて舌もない チャンスは一度だろう どこで描く陣がもっとも精密だろうか 残された目で空間に描くか 部屋の中には私の他に二人 回復して転送する 分断の箇所をつなぐのが精一杯 二人が精一杯 他の部屋の者はどうしようもない 手術の後遺症は残る 痛みは戻せない ただ今切れている箇所をつなぐだけ それは彼らにとって迷惑だろうか 単なる押しつけかもしれない 私はじっと彼らを見た それでも彼らは出ていくほうを選ぶだろう 今だって這おうとしているのだから。 あの目は生きることをやめていない ならばいい その目を愛おしいと思った 私は残された目を閉じる 最後の魔法を使うために 二人だけならば どこか見つからぬほど遠くへ 残る命の炎を集約すればきっと 罪滅ぼしと思ったわけじゃない それで滅ぼせるような罪ではない ただ 彼らが逃げのびてくれれば 私はここで死んでも 希望が生き残る 希望のためにこの命を使えるならば 死に様としては悪くない そんな気がした <LABO - manipulate - > http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/448d87233a5f6473a3ff18496c7a89e5 ************* >>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2 >>登場人物紹介(随時更新) トールとデセルさんが、地下のバーで話していたこと。 単発で出すにはちとえぐいので、今日二本目です。 苦手な方すみません。 コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます! おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。 どれも大切に嬉しく拝見しております♪ 続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪ 拍手がわりに→ webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→ 7/21 クンツァイトヒーリング やわらかなピンクをあなたに。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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