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2009年12月29日
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「行っちまったなあ」

夕陽のさす寮の食堂で、オーディンは香草焼きの魚をつつきながら呟いた。

「そうだなぁ。俺達は引越しも手伝えなかったしな。せっかく一緒に昇進したのに、あの間抜け大佐が自分とこの作戦に貸してくれなんて言ってこなきゃ」

ニールスが仇敵のようにつけあわせの人参をフォークで突き刺す。ゼキルとかいう大佐の作戦に付き合わされたりしなければ、敬愛する上司の引越しをわいわいと手伝いに行けたのに。

「あのデブ大佐、アルディアス様のことも昔苛めたらしいぜ」

黒髪に日焼けた顔のクラウドが、大きな身体をちぢめるようにして声をひそめた。

「なんだって? じゃあ追い抜かれたのか。いい気味だな」
「そりゃ並べたら格が違う。部下を怒鳴るしか能がないんだから、あいつは」

硬めだった人参を大仰に噛み砕き、ニールスはフォークをふりまわした。

食事時間をかなり外れて他に人がいないのをいいことに、口々に言いたい放題だ。ちなみに一般家庭では夕食の用意をする時間帯だが、彼らが今食べているのは昼食、ということになる。

「准将になったら部隊を任されるだろ。俺達の部隊にならないかな」
「そうだよなあ」

最後は皆そう呟いて、彼らはそれぞれの部屋に仮眠に行った。


その夜更け、目覚めたニールスとオーディンが食堂で話していると、ひょっこりと銀髪の男がやってきた。

「あれっアルディアス様、どうなさったんですか?」
「うん、私の部隊が内定したから伝えにね……もう少し早い時間に来る予定だったのだけど」

掲げた片手に酒瓶の包みがある。引越しに会えなかった彼らに気を使ってくれたのだろうと思われた。

「恐縮です……せっかくだからお飲みになります? あ、クラウドもいますよ。起こしてきます」

ニールスが席を立ってゆく。オーディンはぼさぼさのままの頭をかいてぺこりと下げた。
部屋は誰のも片付ける暇がないということで、薄暗い食堂の片隅につまみとグラスを持ってくる。

「大佐、じゃない准将、あんたほんとにここでいいのか?」
「構わないよ。気を使わせるのも悪いしね」

アルディアスが微笑む。まがりなりにも二十四時間使えるようになっている食堂と違って、応接室の使用には守衛の許可が必要だ。とはいえ将官の訪問であれば、立派にその理由となるのだが。

アルディアスが上下関係に厳しくなく、形式を嫌うことは、近くにいた者は皆知っている。オーディンの同僚に向けるような口調も、彼はまったく気にとめていなかった。
昇進前も普通に食事に混じっていたし、事情を知らない者からはよく奇異の目を向けられていたものだ。

乾杯をした後で、おもむろにアルディアスは言った。

「私の部隊だけれどね、今までと同じになったよ。ほら、上司がもう年だったし怪我をしただろう。あれで異動希望を出して、私が代わりに預かることになった」
「やったぜ!」

クラウドがガッツポーズをとる。ニールスとオーディンは、にやりと顔を見合わせた。一度将官の部隊が決まれば、気心を通わせ隊の質を高めるために、よほどの理由がない限り、ずっとその名を冠するのが普通だ。

「みんな、よろしく頼むよ」
「もちろんです。こちらこそ」
「じゃあ、准将昇進の祝賀会をしましょうよ。俺、幹事やりますから。准将のお暇なときはありますか?」

ニールスが手を打った。彼にはアルディアスの副官という内示が出ているが、銀髪の男はそれを黙っていた。部隊が正式発表になったとき、同時に驚くことになるだろう。

アルディアスの予定が二日後なら空いているということで、ニールスは一両日中に参加者を募って店を予約すると言った。この青年はこういう手回しが上手く、将官の秘書役たる副官には向いた人材だといえる。


フェロウ部隊の祝賀会は、かなりの人数が出席して賑やかなものとなった。
小ぢんまりとした店ひとつを貸切にし、わいわいと騒ぐ。アルディアスは財布役を申し出たのだったが、ニールスは人数も多いことだしと会費制にして折半としてくれた。

「准将ばんざーい!」

酔った声で、何度目かの乾杯が行なわれる。
奥の壁際に普通に混じって座ったアルディアスは、グラスを片手ににこにことその様子を見ていた。

ニールスが探してきたのは大きな木の梁のかかった暖かい感じの店で、じっくり煮込んだシチューと大ぶりの野菜料理が看板だった。

和気藹々の中、盛り上がって赤い顔をし、ジョッキを片手に立ち上がって大声で喋っている者もいる。
だが新しい上司のにこやかな様子に似るのか、醸された気楽な雰囲気がそうさせるのか、部下達は陽気な酔っ払いばかりで、からんだりわめいたりする者はいなかった。

「ほんとにおめでとうございます、大佐」
「大佐じゃねえよ!」

間違えると即座に突っ込みが入り、あちこちで陽気な笑い声が起きる。

「どちらでもかまわないよ。私もまだ慣れていないからね」
「そりゃいけません。准将ですよ、じゅ・ん・しょ・う!」

赤ら顔の男が、ろれつの怪しくなった舌で唱えてくれる。笑いながらそれにうなずいていると、横でオーディンがグラスを干してぼそっと呟いた。

「周りのほうが喜んでるな。あんたもとっとと慣れるこった」
「おや、昇進は嫌だとだだをこねている君に言われるとはね、オーリイ。後輩が困るとニールスがぼやいていたが」
「俺はいいんだ、俺は。そんな器じゃねえもん。ニールスはいい奴だ。そこそこ腕もたつし、あいつも上に行ったらいい」

よく言うよ、とアルディアスは肩をすくめた。
その肩を軽くつついてニールスが耳元にささやく。そろそろお開きの頃合ということで、会費の徴収などもすべて終わって、店側との交渉も済んでいると彼は言った。
その手並みに感謝して席を立ち、残りの会計を済ませる。思ったより割安だったのはニールスの手腕と、店の好意であるらしい。

軍人は酒が入ると乱暴になる者が多く、宴会はできれば敬遠したい店が多いのだが、今夜のお客様がたは大変陽気で楽しゅうございましたから、と白い髪の老境にさしかかった店主は微笑んだ。

「どうぞまたおいでください。ご活躍をお祈りいたしております、准将」
「ありがとう。寄らせてもらうよ」

軍人らしからぬ風貌で、銀髪の男は微笑みかえした。
















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【銀の月のものがたり】 道案内

【第二部 陽の雫】 目次



アルディアスの部隊のお話。
実戦本番以外は、えらい和気藹々とした部隊だったみたいですw
自分ではえー嘘だろーと思っていたら、複数証言が得られたので書いてみましたwww

ヒーリング記事の計算を忘れていたので(爆
年内どこまで載せられるかなあ・・・・^^;



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最終更新日  2009年12月29日 11時32分48秒
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