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2010年11月02日
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彼女が永遠の旅路に出たのは、その夏が終わろうとする頃のことだった。

胸の上に手を組み、ひっそりと目を閉じるその姿は、いつものようにただ眠っているだけのように見える。
枕元には何本ものラベンダースティックがきれいに籠に入れてあった。
そのうちの幾本かは、濃いブルーの細いリボンでひときわ丁寧に編まれている。

同じ色の瞳でそれらを見やりながら、オーディンは呆然としてベッドの前に座り込んでいた。

「エリィ……どうしちゃったんだよ?」

かすれた声。知らせを受けて飛んできたばかりの彼は、まだ土と埃に汚れた軍服姿だった。
いつも見ていた彼女と同じようでいて、その姿はあまりに違う。

早く強く大きくなりたくて、彼女を護れるようになりたくて、心配されるのを承知で軍隊に飛び込んだ。
そして一年。背も伸びたし実戦経験も積んだ。血と死体と糞便の散らかる戦場はとても恐ろしかったけれど、一年前の自分に比べたら少しは強くなったと思う。

「エリィ……」

呼びかける声に返事はない。
窓辺に両肘をつき、顎をのせて下を見て、ぽつりぽつりと愚痴をこぼす彼の頭を撫でてくれた優しい手。
甘えさせてくれるのが嬉しくて、でも早く「弟」より強い存在になりたかった。

軍にはフル装備で長距離を走破するような訓練もある。それらで鍛えられたオーディンはかなり精悍な体つきになっていた。
今なら細身の彼女を背負って、どこまででも歩いてゆけるだろうに。

部屋と窓辺しか知らぬ彼女に、見たいと望むどんな景色でも、一緒に行って見せてやることができるだろうに。

なんでこの間帰ったときに、気分の良さそうだった彼女を少しでも背負って外に連れ出してやらなかっただろう?
内気な彼女が恥ずかしがるだろうと遠慮しないで、窓から見えない野に咲く夏の花々を直接見せに行ってやればよかった。

その傍を通ったとき、ああ見せてやりたいなとふと思ったのだから。
どうしてそれを叶えなかっただろう?
エリーデが好きそうだと思った花を、どうしてもっとたくさん摘んでいかなかっただろう?

できなかったことばかりが頭の中をぐるぐると回って、オーディンは唇を噛み締めた。

幼いころから病弱だったエリーデが、家より外を知らないから望みもしない、たとえそんな状態だったとしても。
歩ける自分が、彼女に世界を見せてやりたかった。

海も空も満天の星も山の頂に流れる風も、こんなにも遠くまで広がって、生きとし生けるもの達を包んでくれている。
その果てない大河の中、躍動する生命の息吹の只中に自分達はいるんだと、彼が触れた感動のままに伝えてやりたかった。
エリーデが病気でも年上でもなんでも、そこに居て笑ってくれるだけで奇跡のように嬉しいことなんだと伝えたかった。


彼女の遺体が棺に納められたとき、オーディンは震える手でポケットから小箱を取り出した。
中に入っているのは、小さな石のついたソリテールの華奢な指輪。
まだ十九歳の彼は、婚約やプロポーズなど、大それたことを考えていたわけではない。けれどほっそりしたシンプルな指輪を、前から彼女にあげようと思って買ってあった。

せめて指にはめてやろうとしたが、冷たい手に自分の手が無様なほどガタガタと震えるためか入れられない。
オーディンは指輪を小箱に戻し、枕元の位置にそっと入れさせてもらった。

「あんたが、好きだった」

ラベンダーに埋まった青白い顔の傍に頬を寄せて、オーディンはそっと囁いた。
言いたくて言えなくて、気持ちだけはずっと抱いていた初めての言葉を。

「好きだったよ……」

埋葬が終わって建てられた真新しい墓標に指を触れながら、オーディンは口の中でもう一度呟いた。
人々はすでに去って、墓地には彼しか残っていない。
晴れ渡った空には細い雲が風にたなびき、一足先に秋が来たようだ。

  好きだった。

過去形のその言葉にどうしようもなく打ちのめされて、オーディンは墓標の前に膝を落とし、叫ぶように泣いた。
顎を伝った大粒の涙が、掘り返されたばかりの土を握りしめる手にぼろぼろと落ち、まだ柔らかい地面に染み込んでゆく。

「うわあああああっ……」

喪服の膝下が泥に汚れるのも構わず、彼は嗚咽した。

逃げていたのだ。

彼女より年下だから、軍で身体を鍛えるまで。
病弱な彼女が、頼れる男になってから。

そうやって理由をつけて、故郷に帰れば待っていてくれる環境に甘えて、実際には想いを伝えてこなかった。
いつか彼女にふさわしい男になったら。いつか。

彼女の病気を軽視していたわけではけっしてないけれど、若いオーディンは未来が長くあることをどこかで信じて疑っていなかった。

いつか。そのうち。もう少し。

唱えていた呪文がいかに虚しいものであったか、彼女とともに未来のすべてを喪ってから、ようやく彼は気づいた。
自分がいかに表面的な条件に囚われ、大事なことを見落としていたのかということに。

逃げてはいけなかったのだ。
時は流れ逝きて、けして戻ってはこないのだから。
喪ってしまった人は土に還り、思い出だけがこの胸に残る。黒髪の若者は、引き裂かれるような気持ちになって唇を噛み、握りしめた拳を大地に打ちつけた。

しかしオーディンは気づいていなかったが、逃げていたのはエリーデも一緒だった。
身体が弱いから、年上だから、姉のようなものだから。
さまざま理由をつけては、自分の気持ちに嘘をついたり宥めたりして、伝えることを先延ばしにしていた。

彼を縛ってはいけない、彼に自由をという大義名分に隠れて、彼の想いを受け止めるのを恐れていたのかもしれない。
同時に思いを伝え踏み込んで、逆に嫌われてしまったらという不安。
望みを現実に反映させ、変えてゆくのが怖かったのかもしれない。

彼女は極端に変化を、彼に嫌われることを恐れていた。
幼い頃から病につきあい、痛みや発作を逃すことには長けていたが、その分今の生活が崩れることを恐れていた。
慣れない状態で発作が出たらどうしようという恐怖。
それでも彼と一緒なら越えられると……そう、思えればよかったのだが。

二人は結局、自分のことも相手のことも未来のことも、きちんと見ていなかったし信じてもいなかったのだろう。
二人で生き抜くには覚悟が足りなかったのかもしれない。

常に自己否定と不安が付きまとう中、あれが好転したら、これがこうなったらと条件をつけて踏み出さない言い訳にしていた。
それが、むしろ互いを傷つけているとも気づかずに。


結果論かもしれない、それでも。
本当は、お互いに想いを伝えて、その上で二人の時間を大事にできればよかったのだろう。
エリーデの命数が尽きるのは決まっていたとしても、それまでの時間を大切に一緒に紡いでゆくことで、別の世界がそこにはできあがっているはずだった。
同じ早くに亡くしてしまっても、互いの記憶は違う形をとっているはずだった。

天寿を伸ばすことはできない。
しかし二人が望み動くなら、同じ時間に流れ落ちる砂時計の砂粒を、黄金に変えることはできたのだ。

死が二人を分かつまで、それまでは。




















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最終更新日  2010年11月02日 17時16分25秒
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