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2011年06月01日
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はぁっ、はぁっ、はぁっ。

少年は街を……いやかつて街であった廃墟を走っている。
燃え盛っていた火災が落ち着き、あたりは焦土と瓦礫の山になった。
時折瓦礫に足をとられて転ぶのもかまわず、焦げ臭い空気に息を切らしながら、彼は全速力で家を目指して走っている。

父親は早くに亡くなった。
母親と兄妹とは、身を寄せ合って暮らしてきた。

無慈悲な銃火器の音が、今でも耳に響く気がする。
これで会えなかったらどうしようと押し寄せる不安。煤まみれの目元に涙の粒が浮かぶが、彼はそれを拳でこすって走り続けた。

少年が家だった場所にたどり着いたとき、そこには何も残っていなかった。
家ごと全壊し、壁もほとんど残ってはいない。
口から飛び出そうになる心臓を無理やり飲み込んで、ひとりで必死に掘り返した瓦礫の下からは、母親と重なるように倒れている兄の遺体が出てきた。
学校の寮に入っていたはずの兄は、母を護るために戻ってきたのだろう。

妹は、と咄嗟に周囲を見回すと、彼では動かせなかった大きな瓦礫の隙間から、母が胸に抱く小さな身体が目に入った。
母が抱き兄がその上に覆いかぶさった、それでもその子はもう、動かなかった。

誰も、いない。
何も、なくなった。

へたへたと力が抜けて、三人を見つめたままその場に座り込む。

幸せと思い出のすべてが奪われた瞬間だった。
涸れ果てた大きな瞳からは、涙すらも流れはしない。
しばらく茫然としていたシエルの胸に、だんだんと怒りが湧き上がってきた。

誰のせいだ。
誰が俺の大切なものを奪ったんだ。……誰が。

矛先を探して振り向いた彼の視界に、いくつかの軍服が映る。反射的に手近な瓦礫を握り締めて投げつけようとしたとき、他の誰かが叫んで同じことをした。

「人殺し! 人殺し!」

叫ぶ声は老婆だろうか。シエルのいる場所からはその姿は見えなかったが、罵声は続いて軍人たちに石が投げつけられているのがわかった。
数人のグループになっていた軍人たちの何人かが、さっと一人の前に立とうとするのを見ると、そいつが上官なのだろう。

後ろからも礫を投げつけてやろうと腕を振り上げたシエルは、しかしそのまま息を呑んで固まってしまった。
その上官らしき一人が部下を抑え、自分を罵る声に向けて黙って頭を下げたから。
その礼は深く長くて、ただの格好つけではないのだということが嫌でもわかる。

怒りのぶつけ先がなくなって周囲を睨めば、グループから二十歩ほど離れたところ、長めの黒髪に日に焼けた顔をした別の軍人が、自分の左手に立っていた。


黙って老婆に頭を下げるアルディアスに何も言うことができず、木偶の棒のように突っ立っていたオーディンは、ふと右側に人の気配を感じて振り向いた。
七、八歳というところだろうか。明るい茶色の髪をした少年が、まっすぐに彼を睨みつけている。
オーディンは座り込んでいる少年にそっと近づき、前で膝を折った。

「お前、どうした。大丈夫か」

少年のハニーカルサイトの瞳はオーディンを睨みつけたままで、答えはない。かまわずに彼は続けた。

「怪我でもしたのか? どこか、打ったのか。これは…お前の家なのか?」
「……」
「家族は…?」

そこまで問うたとき、少年の顔が歪んだ。

「……守れ、なかった。僕が、もっと強ければっ…」

喰いしばった歯の隙間から押し出される言葉。大きな目から雫がぽろりと落ちそうになっては、見られたくないのか腕でぐいっと拭いている。
オーディンは周囲を確認して遺体を見つけると、しばし瞑目した。ブルースピネルの目を開けてから改めて少年に問いかける。

「これからどうするんだ? 行くところはあるか?」
「……」
「このままお前を一人で残していくことはできないな」
「……」

相変わらず流れそうになる涙をこらえている少年を見やりながら、オーディンは折っていた膝を伸ばした。
上司殿に相談しようと思った矢先、あちらから心話が飛んでくる。

(オーディン、どうした? その子は?)
(ああ、ちょうど相談しようと思ったところだ。戦災孤児らしい。家族の遺体が……ここに埋まってる)
(そうか……)

銀髪の上司も黙祷を捧げたのだろうか。しばしの沈黙の後、心話が再開された。

(神殿で預かれるように手配しよう。紹介状を書くから、一度基地に連れて来ておくれ。それから、ご家族のご遺体は必ず埋葬して教えると、伝えて)
(わかった)

心話を終えると、オーディンは少年を振り返った。優しい笑みがその顔にある。

「さぁ、来い。お前の母さんや兄妹たちは、ちゃんと俺達が責任持って埋葬してやるからな。うちの上司殿は、約束は守るぞ」

ズボンでごしごしと擦ってから差し出された、傷だらけの大きな手。
色を失い平地と化した場所で、持っていたすべてが目の前で消えていくのを見たシエルには、それがとても暖かいものに思えた。
立ち上がるのを助けてくれる手だと思ったシエルは、自分もおそるおそる小さな手を伸ばした。
しかしそのままひょいと抱えられそうになって、慌てて足をばたつかせる。

「おぉおおろせ! 自分で歩く!」
「おお、そうか。悪かったな」

オーディンから見れば小さな子だが、プライドがしっかりしているのだ。
少年の強さに敬意を表して謝ると、二人は並んで歩き出した。

現場から少し離れた地方基地に一度連れてゆき、受付の手前にある待合所でちょっとした甘いものを少年に食べさせていると、まもなく上司殿がやってきた。

「待たせて悪かったね、オーディン。それから……」
「シエル」

菓子を頬張ったままぶっきらぼうに答えた少年に、アルディアスが微笑む。

「シエル。よく生きていてくれたね。ありがとう」

長身をかがめて大きな手が頭を撫でると、長い銀髪がさらりと前へ落ちた。
オーディンもそうだけれど、この人もちっとも軍人らしくない。そんなことを考えているシエルに言葉が継がれる。

「君のご家族は、必ずきちんと埋葬させてもらうからね。約束する。それから少し聞きたいんだけれど……住むところをね。いっぱいで少々窮屈でもよければ、地元の神殿へも手配はできる。だけど、もし近くはかえって辛いというなら……」
「遠くがいいです」

はりつめたシャボン玉のような瞳で少年がかぶせる。

「わかった。ではね、少し遠くて申し訳ないが、中央の大神殿でしばらく休むといい」

にっこり笑うと、アルディアスは部下に視線を移した。

「オーディン、手紙を書いたから、これを私の神殿秘書のルカに渡してほしいんだ。もう話は通してある。彼ならこの子を悪いようにはしないから」
「わかった」

軍とはなるべく行動を共にしたくないだろうというアルディアスの配慮で、二人は最低限軍用機に乗った以外は与えられた車を使って大神殿を目指した。

その晩遅くになって神殿を訪れると、オーディンは受付でルカを呼んでもらった。
すぐに通された、簡素ながら暖かい感じのする応接間。ようやく慣れてきたオーディンの服の裾を握り締めている少年の肩に手をおき、黒髪の男は改めてしゃがむとその顔を見た。
別れる前に、どうしても伝えておきたい言葉があったのだ。

「シエル。お前、よく、がんばったな。偉かったな。お前は弱くなんかないぞ」

朴訥な言葉に、シエルの瞳に涙が溜まりだす。

「でも、俺……」
「お前がな、自分を責める気持ちはよくわかる。俺も、大事な人を守れなかったんだ」

苦い告白に少年が息を呑むと、オーディンはまっすぐに彼を見て、続けた。

「でもな、お前は、俺とは違う。お前には未来がある。未来を切り開く強さがある。俺たちの分まで、どうかお前らしく、生きて行ってほしいんだ」
「それに…それが、亡くなったお前の家族に対して、お前ができることなんじゃないかと、思うんだ」

偉そうな言い草だけどな。そう言って照れ隠しに笑う。
ようやくぼろぼろと涙をこぼしはじめたシエルを、オーディンは抱きしめた。
少年はあまりに辛すぎて、今まで泣けなかったのだ。時折ぽろりと落ちそうになる涙を拳や腕で拭いながら、泣くことすら自分自身に許していなかった。小さいながらもなんという意思の強さだろう。

「俺はな。…お前を見つけて、よかったと思ってるぞ。こんな、すごい奴だったんだからな」
「ふ……う、えっ」

抱きしめながら紡がれる言葉と体温のあたたかさに、シエルの嗚咽が止まらなくなる。
一度に喪ってしまったものが大きすぎて、傷の深さすら今はわからない。
けれど今抱きしめてくれる腕はとても温かくて、父代わりだった兄の存在を思い出した。

おそらくはタイミングを計っていてくれたのだろう。シエルが落ち着いた頃、そっと応接間の扉が開かれて細身の青年が現れた。
その姿に気づいたオーディンが、腕に一度力をこめてから離して立ち上がる。

「フェロウ部隊のガーフェル軍曹だ、この子を神殿に連れて行くようにって、上司殿に頼まれた」

そこでいったん言葉を切り、オーディンはがしがしと頭をかいた。子供本人の前で、家族を亡くしたとは言いにくい。

「先だっての市街戦で……、神殿でしばらく暮らすといいだろうって准将がな。准将……あんたにとっては大神官か」

言いながら預かった手紙を差し出すと、緑がかった髪をした青年は優しい瞳でにっこりと笑った。はじめオーディンにきちんと頭を下げ、それから膝を折って少年に目線をあわせる。

「はじめまして。アルディアス様の神殿秘書を務めます、ルカと申します。長旅お疲れ様でした。お話はすでに伺っています。……こんばんは、シエル」
「……こんばんは」

泣きはらした目をそらして、恥ずかしそうに小さな声でシエルが応えると、ルカはもう一度微笑んで立ち上がった。
基本的に神殿の人間はあまり軍人のことは好きではないという印象があるが、ルカの場合は共通の上司だからか、偏見がないようだ。

人好きのする優しい笑顔に、神殿はどんなところかと緊張していたシエルが少しほっとするのがわかる。

オーディンは場の沈んだ雰囲気に耐えられなくなり、ルカを見てにかっと笑顔を浮かべた。

「なあ、あんた准将の神殿秘書なんだろ。あの人、神殿でも食ってねえのか? 寝てねえのか? あれでどうやって人間の体を保ってられるんだか、部隊のみんな不思議でしょうがねえんだがな、なんか秘訣でもあんのか? 神殿の奴らってみんな食わねえのか?」

突然の無茶な質問に一瞬目を丸くしたルカだったが、すぐにオーディンの意図を察した。場を和ませようと冗談で質問してくる彼を、優しい方だなあと思う。

「潔斎でなければアルディアス様も普通に召し上がっておられますよ。神殿ではそれもスケジュールの内ですし……沢山召し上がる印象はありませんが」
「へえ、神殿では食ってるんだな」
「そうですね、あれが霞でなければ」

頭上で交わされる会話に、シエルが交互に視線を投げている。准将ってほら、基地で会った銀髪のお人だよとオーディンが教えると、少年は目をみはった。

「え、あの人霞食べてるの? 確かにあんまり人間には見えなかったけど、仙人だったんだ」

本当にいるんだねと感心されてしまい、大人達は思わず顔を見合わせた。

「…………否定しにくいな」
「同感です。が、シエル。いちおうアルディアス様は人間なんだよ」
「なあんだ。つまんない」

如実に残念がるシエル。その顔に笑って、オーディンは少年の明るい色の髪をぐりぐりと撫でた。

「よし、笑ったな」
「オーディンさん、行っちゃうの?」
「おう。でもまた会えるさ。うちの部隊長はここの責任者なんだから。じゃあな」

二人に言い残すと、背中にありがとうの声を聞きながら彼は踵を返した。














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【第二部 陽の雫】 目次








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最終更新日  2011年12月12日 12時29分25秒
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