カテゴリ:書評・読書メモ
サイモン・シン「フェルマーの最終定理」 Simon Singh「Fermat's Last Theorem」 青木薫さんの訳。 17世紀のフランスの数学者ピエール・ド・フェルマー(Pierre de Fermat)が提示し、 以降、3世紀の間・・360年間、あまたの数学者や数学愛好家を悩ませ続けた 「フェルマーの最終定理」が、 1994年9月、アンドリュー・ワイルズによって証明されるまでを追ったドキュメンタリー。 英国BBCのTVドキュメンタリー番組の書き下ろしなので、 ちょっと数学に興味ある文系にもうってつけ?! いまさらなのですが、ビデオでも見てみたいな~、と思いました。 ワイルズさんのインタビュー等が中心か、と思っていましたが、 「フェルマーの最終定理」を狂言回しにした、 数学の歴史を一挙に辿ったものになっていました。 すべての数学の歴史は、この問題を解くためにあった・・・。 紀元前5世紀のピュタゴラスの定理(三平方の定理)のピュタゴラスが、 「数」を神秘的な崇拝の対象とした宗教団体、ピュタゴラス教団をつくり、 600人の弟子(・・うち女性が20数名いた)たちとともに、 数学の研究をしたことからひもとく。 教団を作った当時のピュタゴラスが、自身の専門を レオン僭主・・・「(王であるかのような権力を)僭称する(ポリスの)主(あるじ)」 に問われて答えた言葉がいい。 「私はピロポロス(知恵を愛する人)です」と。 「レオン公、人生とは国民的祝典のようなものかもしれません。 ある者は賞金を目当てに、またある者は名声と栄誉を得ようとしてここに集まってきます。 しかし、ここで起こることすべてを観察し、理解しようとして来る者は多くありません。 同じことが人生についても言えましょう。 ある者は富への愛によって動かされ、ある者は権力と支配を欲する情熱に盲目的に引きずられています。 しかしもっとも優れた人間は、人生の意味と目的とを見出すことに専心するのです。 自然のヴェールを剥ごうと努力するのです。 これこそ私が、知恵を愛する人と呼ぶ人間です。 というのも、あらゆる点で非の打ちどころのなく賢い人間などおりませんが、 知恵を愛する人は、自然の神秘への鍵として知を愛することができるからです。」 まるで、ソクラテスの「フィロソフィア(愛智)」ですね。 でも、ピュタゴラスさん、「無理数」を認めることができなくて、発見した弟子を溺死させたり、 入学試験を落とした青年に逆恨みされて、最終的に教団に火を放たれ焼け死んでしまう等 残念ながら「非の打ちどころ」がなかったわけではないことも書かれています。 その後、エウクレイデス(ユークリッド)、オイラー、ガウス、そのガウスとも交流のあったソフィー・ジェルマンら・・。 近代では、ヒルベルトと同時代の数学者たちが一同に、 公理を基に、古今東西すべての定理を改めて導きだそうとしたプログラムを実施する。 ・・が、ラッセルが、証明できない問題があるかも・・という疑問を示唆したこと。 そして、疑問の極みは、ゲーデルが「不完全性定理」で、 証明も反証もできない命題が存在することと、自身の無矛盾性の証明もできないこと を示し、もしかして「フェルマーの最終定理」もそのような証明できない問題の一つかもしれない・・ ことがわかったこと。 でも、二人の日本人、谷山豊(とよ)と志村五郎によってたてられた 「谷山=志村予想」を解くことが、「フェルマーの定理」を解くことにつながることが 示されたこと。 そして、アンドリュー・ワイルズが、7年間に渡り屋根裏に籠もって考え続けたこと。 ついに、「ここで終わりにしたいと思います」という言葉で幕を閉じる・・ と思ったら、6名のレフェリーによる審査によって、1点のほころびが発見される。 このほころびを繕うため、世間の喧騒からまた隔絶し、14ヶ月間さらに籠もる。 とうとう大団円を迎える後半は、息詰まる物語でした。 「ある意味で数学者はみな、一人一人別の道をたどり、別の目標を立てながら、 実はフェルマーの最終定理に取り組んでいたのだという。 なぜならその証明には、現代数学のすべてが必要だったからである。」 蛇足ですが π(パイ)の不思議・・・ 川の水源から河口までの直線距離と、蛇行した実際の川の距離の比を測ると、 3.1415・・・倍、π(パイ)になる。 カオスと秩序のせめぎあい・・・その結果が、π(パイ)になる!!!! 藤原正彦・小川洋子「世にも美しい数学入門」・・・天才数学者の生まれる条件 の中にも、ビュッフォンの針の問題「間隔10cmで無数の平行線が引かれている平面に,長さ5cmの針を落としたとき,針が平行線と交わる確率は、1/πである」・・・が紹介されていましたが、ほんと不思議。 数学者の立場からみた、ワイルズさんの取り組みに対する評は、 ティモシー ガウアーズ「1冊でわかる数学」・・・・26次元の世界 にもありました。 <目次> 第1章 「ここで終わりにしたいと思います」 第2章 謎をかける人 第3章 数学の恥 第4章 抽象のなかへ 第5章 背理法 第6章 秘密の計算 第7章 小さな問題点 第8章 数学の大統一 補遺 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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