システムエンジニアの晴耕雨読

自壊する帝国

佐藤優「自壊する帝国」


　巨大な帝国であった、ソ連崩壊の前後から、佐藤氏が逮捕する直前までの

　当時ソ連でリアルタイムに起こっていたことと、日本のロシア外交の様子を

　描いています。

　
　本書でも、人間に対する洞察が、キラリと光ります。


モスクワへの赴任にあたって亡命チェコ人のアドバイス

「・・現地の空気をよく見て自分の勘を大切にすることだ。

　理屈と勘がぶつかった場合は、勘を重視することを進める。・・」

「新聞を馬鹿にしないことだ。

　・・どんなに内容が退屈でも、必ず赤鉛筆で重要事項をチェックしながら読むことだ。・・

　半年もすれば新聞の行間から何が実際に起きているのかが読み取れるようになる」



「・・ＫＧＢが怖いというのは神話だよ。

　あいつらはテクノクラートだ。

　怖いのはＫＧＢではなく、政治だ。

　政治が秘密警察をどう使うかということだ。・・」

ソ連崩壊直前、ゴルバチョフ政権は、ＫＧＢを使えなかった。

そして、ＫＧＢ内部にいたプーチンは、ＫＧＢに見切りをつけ

政治に転じた。



宗教と妻帯禁止の関係・・

　カトリック教会の聖職者は、独身制をとる。

　ロシア正教会も、独身制をとる。

　この合理的な理由は、

　信者からの帰依と莫大な寄進により、

　教会自体が強大な権力と財力を持っている。

　そのため、カトリック等の宗教団体が「独身制を固執するのは、

　聖職者がこの富や力を子供に継承することを望み、

　そのため家族という要素が教会の意思決定に影響を与えるようになることを

　恐れているからだ。

　中国やオスマン（トルコ）帝国の場合、

　去勢制、つまり宦官制度を設けることで、権力が集中する官僚が生物的に後継者を

　もつことができないようにした。

　カトリック教会の場合は生物的去勢は行わなかったが、

　聖職者を社会的に去勢したのである。」

　・・日本の仏教が、明治期になしくずし的に・・つまり教義を変えずに

　政府からのお達しにより妻帯ＯＫにしましたが、

　また、それが社会に是認されたのは、

　織田信長らによって既に権力を失っていたことの裏返しかもしれません。

　現在、キリスト教を弾圧しているといわれる中国と違って、

　本書では、ソ連・ロシアにおいて、ロシア正教の力の非常に強い様子が伝わってきます。

　また、ロシア正教の影響の理解抜きでは、ロシアの理解が不十分である、ということも。

　このあたりは、「カラ兄」の亀山さんと佐藤さんとの対談で理解できれば・・と思っています。



＜目次＞
序章 「改革」と「自壊」
第1章 インテリジェンス・マスター
第2章 サーシャとの出会い
第3章 情報分析官、佐藤優の誕生
第4章 リガへの旅
第5章 反逆者たち
第6章 怪僧ポローシン
第7章 終わりの始まり
第8章 亡国の罠
第9章 運命の朝