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カテゴリ:ドラマ
中学校教育において、イジメ、教師の質、親子の問題を多角的に取り扱おうとした意欲作だったが、途中話が分散しすぎて、何が話しの中心なのかわからなくなり迷走気味となった。
しかし、取り扱っていたものは、子供たちの自己実現の場をどこに見出せばよいかでもがき苦しむさまであろう。 認めてくれるものがいない、信頼しようとしていた大人や友達に裏切られたという思いや、理解者がいないという思いから、自己否定に苛まれ、周囲から孤立している。 そういう状況で、イジメる側、いじめられる側が生まれる。 そして互いに傷つき、生きている意味を見失っていく。 では、教師や親は、どう対処すべきなのか。 教師も品性を問われるような行動が次々と露見し、親は親で子供を放任するか、過度に干渉するかで、子供の将来に責任を持とうとしていない。あるいは親も教師もそういう余裕がなくなったのかもしれない。 そうした中で起きたのが、2年の生徒、藍沢明日香(志田未来)の教室の窓からの転落事件であった。 その背景には、そうした親の問題や教師の問題が描かれていた。 しかし、親や教師が偉大で、憧れの対象であった時代は既に遠い過去のものであろう。 「世界を変えることはできますか。」 明日香が、問いかけた疑問は、生のよりどころをどこに求めればいいのか。 世界(自分の関係する環境・関わりあう人々)を変えなければ、それは手に入らないではないか。 ということであったのだろう。 そしてその自問にたいする答えを明日香は最終回で、壁書きを残すことで、義母である珠子(菅野美穂)と親友であり最も長い期間いっしょに過ごしてきた朋美(谷村美月)に伝えた。 それは、 「過去の自分、未来の自分が常に今現在の自分をささえ、励ましている。だから自分は決して一人ではない。過去の自分からバトンを受け継いで、未来の自分に渡す使命がある。 ここで止まったら、過去や未来の自分が悲しむ。 自分は今日だけの自分じゃない。 だから生きて、たくさんの思い出をつくろう。 長い時の流れの中を歩き続けよう。」 そうすれば、”世界”は変わる と、明日香は自分に対する決意を語るのである。 ”世界”を変えるには、結局だれをも頼れない、自分自身と向き合うことでしか解決できないものである。ことを訴えようとしている。 この決意は並々のものではないであろう。 それは自立の決意であり、周りには期待せず、自分で立ち上がるのだという決意である。 豊かになり、成熟した社会では、生への執着が薄れ、子供も大人も生命力が弱くなる。 日本社会は近年、特にその傾向が目立っている。生命力とは、生きる力のことであり、自立のことである。 自分ひとりでは生活できない人間の集団となっている。ライフラインのひとつが止まれば、たちまち立ち往生するし、自分で物を作って自足の生活をする術も失っている。 子供たちの生への執着も失われ、いきいきとした眼差しは消えかけている。 将来の夢や、自分がこの国を変えるという気概もなくなってきている。 自立することを失った社会は、容易く崩壊する。 そういう状況において、 「過去と未来の自分を励みにして、バトンを受け継いで長い時の流れの中を歩き続ける。」 という思いに至った明日香は、 生へのエネルギーがあふれていると言える。それは自分自身の存在意義を認識し、自分が変われば”世界”も変わるという能動的な働きかけを周囲に対して行うエネルギーである。 だから、事故の直前、あのように生き生きとした眼差しで朋美を説得できたのだろう。 このドラマの主題は 子供たちよ、頼るものがないのはそもそも当然のことである。自立せよ。 ということを、孤児として育った明日香を通して言いたかったのではないかという気がする。 そういう意味では、このドラマのメインは、いじめ隠ぺいでも、裁判でも、教師のふらつきでもなかった。 明日香の行き方であり、明日香の残した言動であった。と言えるのではないか。 「わたしたちの教科書」 フジTV 2007年 主演:菅野美穂 出演:伊藤淳史 谷原章介 風吹ジュン 志田未来 真木よう子 酒井若菜 大倉孝二 水嶋ヒロ 佐藤二朗 谷村美月 鈴木かすみ 冨浦智嗣 他 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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