えー、今朝のめざましテレビの「ココ調」は爆笑でした。都市伝説的にやられている行動が是か非かを検証した「トンデモ通説」という新シリーズでした。
取り扱われた話題に「インスタント写真は、カメラから出てきた後に振ると早く絵が出る」という通説が取り上げられていました。
インスタントのなんたるかを勉強した身として、「振ってももんでも早く画像が出ることは物理的にあり得ない」と言うことを知っている(ちょっと上から目線な言い方だ)もんですから、「へぇそんなことを信じているんだ」的に面白かったのです。
インスタント写真は大きく2種類あります。ひとつは最初に発明されたSX-70に代表される自己現像タイプと、もうひとつがプロが露出や構図をチェックするときに使ったりスピード証明写真で使っている現像液部分を引っぺがすピールアパートタイプがあります。ちなみにどちらも現在では絶賛絶滅的品種ですが(泣)
今回テストに使われたのは、自己現像タイプでフジフイルムの「チェキ」でした。アンケートによると、90%近くが「カメラから出てきたら振る」ことをやり、90%近くが「振った方が早くできあがる」と信じているという結果だったので、軽く笑いました。
少し詳しく自己現像タイプの構造を説明しましょう。画像が浮かび上がる所に「感光剤」が散布されており、直接レンズからの光が当たります。インスタントには写真の下部にメッセージを書けるような周囲の縁より広い白がありますよね。あの下に袋詰めされた現像定着剤が入っていて、「ジィーーーッ」と出てくる時にローラーで袋を破り「感光面」へ押し広げるように散布します。その後現像されて像が出てくる、という仕組みです。
したがって振っても現像剤が活性化する訳ではないので、振ってもまーったく意味が無いのです。
ついでに言うと、現像剤ですから多少の温度によって活性化が変化します。低温だと現像時間が遅くなりますが、設計上通常の気温であるおよそ15度から35度ぐらいでは、現像時間に変わりがないようになっています。よって、手や脇で温めるのも、人間の体温ぐらいじゃほぼ意味ありません。もちろん温度が一定以上高くなると、現像剤は活性化するので現像終了までの時間が短縮できます。僕は「インスタント現像促進機」という高温で温めるマシンを持っています。
ちなみに自己現像タイプもピールアパートタイプも、常温で規定時間そーっと机の上とかに置いて現像させるのが、正しい扱い方です。そして低温でも時間がかかるだけで、発色に変化はほとんどありません。って、フジのインスタント部の開発の人に聞いたんですもん。
本題からずれてきたので、軌道修正(汗)
で、番組内で激しく笑ったのが「ではインスタント写真を激しく振るとどうなるか?」という実験を、ムキムキでパンツ一丁のボディビルダーの方々にやってもらったのです。チェキから出てきた次の瞬間から、超激しく振りまくりました。すると、現像剤が激しく揺らされたため、かなりひどいちりめん状の現像ムラができました。んー、一般でそんなに振る人、しかも半裸で振る人はいないだろう、ってね。
さて、番組では「なぜこのような通説が蔓延したのか」については触れなかったので、あたくしが想像の範囲として仮説を出してみましょう。
ズバリ、「プロが振っていた印象があったから」だと思います。
んじゃ、どこで?
例えばテレビでモデル撮影をしているときに、先ほどの話の通りピールアパートタイプのインスタントを使ってチェックする映像で見たとか。あるいは多くの場合、自分でスピード証明写真を撮りに写真館他へ行った際、ピールアパートタイプで撮影された後にお店の人が写真をピラピラ振っていた、という所から「インスタントはピラピラ振るもんだ」というイメージが付いたのではないか。と思うのです。
んじゃ、なぜピラピラ振っていたのか?
それは、インスタントの代名詞でもある「ポラロイド」が送り出したピールアパートタイプの白黒インスタント写真のほぼ全ては、現像が終わった後に別途定着剤を手で塗らないといけなかったのです。この定着剤が軽くベタベタするので、乾燥させるためにピラピラと振っていたのでしょう。
したがって「インスタント写真は出来上がり時にピラピラと振る」というイメージが出来上がったと思われます。「だってぇ、プロがやっていたからさ」的なところからスタートし、次に「誰かがやっていたから自分もやる」的に広まったのでしょう。
もちろん一般的インスタントは自己現像タイプであり、商業写真として使われていたのは若干特殊なピールアパートタイプでしたから、そこに大きく違いがあるのですが一般人に区別が付くとは思えません。一般の人には「インスタント写真」というくくりで見ていますからねぇ。
ちなみにフジフイルムが発売しているインスタントの「フォトラマ」シリーズのピールアパートタイプは、定着剤が不要でした。しかし、写真と現像部とを引きはがした際に、若干濡れた感じが残るので、やっぱりピラピラ振って乾かしたことでしょう。
ということで、「インスタント写真とは完成させるために振るべきものだ」という通説が広まったもの、という仮説を立ててみました。
案外当たっていると思いますよ。
ちなみに僕が知りうる限りの話ですが、自己現像タイプのポラロイドで構図チェックをしていた(していたところをテレビのドキュメンタリーで撮られた)唯一の写真家が、過去にひとりだけいました。彼の名は「ヘルムート・ニュートン」です。ファッション写真というジャンルに、エロチシズムやデカタンスな要素を取り込んだ広告写真の超巨匠でした。本番用フィルム撮影はハッセルでしたが、モデル他スタッフとの打ち合わせ用に使っていたのが、ポラロイドのスペクトラでした。自分的にはかなり衝撃的映像でしたよ。
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