町のホルモン屋さん　山田ホルモンの若旦那

今日は火曜日。山田ホルモンは定休日である。しかし我が家では朝から若女将が掃除に布団干しにユン坊（息子）にミルクをあげたり大忙しである。ゆっくり新聞を読むのもままならず、「ちょっと、手伝ってよ!!」っと叱られ、トボトボとお手伝い。せっかくの休みなのにな～　

しかし今日は文句を言ってる場合ではない。うちのユン坊の病院の日である。定期健診ではなく、ちょっと気になる症状が出た為、無理をいって病院に予約をとってもらったのだ。昼過ぎに予約をとっているので、午前中に全て家の仕事を終わらせようということだ。

飯塚で総合病院といえば、飯塚病院である。この病院は麻生太郎さんのお膝元というより、麻生さんの私立病院である。私立病院としては日本で一番大きいらしい。病院に入ると患者さんで溢れ返っている。この患者さん達は麻生さんの恩恵を十分に受けているのだ。麻生さんが選挙で地元に帰ってこないのも、こうした地盤がしっかりできているからであろう。今回も余裕の当選である。

広い病院を歩きまわり、やっと小児科を探し当て受付を済ませた。今日は小児科は休みなのに、乳児を連れてきたので隣の内科の患者さんは訝しげにこちらを見ている。「もう何時間も待っているのに!」と言った内科の患者さんの横で、今着たばかりの新参者のユン坊（息子）の名前が呼ばれた。またまた訝しげに、（…なんでお前からだよ…）という目で見られた。

すぐにエコーを取りに移動し、エコーを取り終えてまた戻ってくると、またまた内科の患者さんが一斉に、（戻ってきたよ…）という心苦しい目で迎えてくれた。私はこころの中で、（私の息子はちゃんと予約をとってきてるんです。）と自分に納得させながら、また一番に診療室に入った。

診察を終えたころにユン坊の目が覚めた。やばいと思った若女将は、「ミルクを作ってくるか少しだけ待っててね。」と言い残し、トイレに消えた。残したのは言葉だけじゃなく、ユン坊も一緒にである。泣き出すのは火を見るより明らかである。やばい、やばいと思いきや、ユン坊はなりふり構わず大声で泣き出してしまった。こういうときの赤ちゃんは容赦がない。いつもよりも元気に泣き出してしまった。

内科の患者さんの視線は一斉に私に注がれた。看護婦さんも心配そうに見ているが、泣く子をだまらすのは親の務めである。いつもだったらおしゃぶり変わりに私の指をくわえさすのに、今日はあまりにもギャラリーが多すぎる。しかも私の一挙手一投足を固唾を呑んで見守っている。さっきうるさいと言っていたおじさんですら、どうするんだ、と言った表情でこっちを見ている。

（赤ちゃんなんだからしかたないでしょ、と泣かせるのか、私の指をくわえさせ泣き止ませるのか、どちらがいいのだろうか。）

（でも指をくわえさせたら、知らない人が見れば子育てが出来ない親が無理やり赤ちゃんの口に指を入れてる、と思われるかもしれない。看護婦さんに止められたらどうしよう…）

考えあぐねた結果、私は自分の指をくわえさせる事にした。するとユン坊はいつものようにチュパチュパと音を立ててしゃぶり出し泣き止んでくれた。内科の患者さんは安堵の色を表した。看護婦さん達も通常の業務に戻った。あのおじさんをチラッと横目で見ると、よくやったな、といった目で頷いている。

帰ってきた若女将は、「ユン（息子）の声がトイレにまで聞こえたよ。大変やったね。」とユン坊にミルクを飲ませて一安心した。若女将が帰ってくるまでの約5分間は私には30分にも1時間にも思えた。結局ユン坊の症状は心配に至らないという診断であった。

しかしこれからユン坊を連れて遠出する場合もあるので、今回の経験を踏まえてしっかりと準備をしなければならない。よく新幹線の中で子供を泣きっぱなしにさせている親がいる。いくら赤ちゃんだからしかたないといっても結構迷惑である。デッキに出るか、多目的室に連れて行く等の対策を取って欲しい。

赤ちゃんは泣くのが仕事である。しかし時と場合により、あやしたり、泣き止ますのがやはり親の務めなんだな～とつくづく感じた日であった。