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町のホルモン屋さん 山田ホルモンの若旦那

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2006年02月23日
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カテゴリ:若旦那の日記
ニュースステーションが終わりCMに入る。ユン坊も寝始め、一日の中でも一番落ち着いたひと時、夫婦だけの静かな時間が流れる。まだ7ヶ月のユン坊は寝返りをはじめ、ハイハイしそうな勢いなので、片時も目を離す事ができない。

「ユンには悪いけど、この時間帯が一番落ち着くね。」若女将は決まってこの時間帯にこう話す。いつもと同じ、いつもの時間が流れると思っていたとき、若女将がこう尋ねた。


「ねー、なんか髪、脂っぽくない?」


「うん、ちょっとね。」


パソコンで仕事をしていた私は、ちょっと面倒くさそうに答えた。


「ねー、なんかベタベタしとるよ。」


「う~ん、ちょっと油を塗ったからね。」


画面から目を離さずに答えた。しかし若女将の執拗な質問攻撃はなおも続く。


「ねー、なんの脂を塗ったの?」


「いつもの、あれよ!」


集中したいときに限って、質問攻撃は繰り返される。これにちゃんと答えてあげなくては、更なるどつぼにはまるので、それなり答えてあげなければ…


「あれって、何? ヘナ?」


「そうそう、ヘナ、ヘナ。」


『ヘナ』とはトリートメント効果がある自然のものだけを使った天然油である。たまに風呂上りに少量付けるのだ。あまりにも激しい若女将の質問攻撃に私も堪忍袋の緒が切れ、


「ちょっと、仕事に集中させてくれないかな。」


と強い口調で言い返した。


「じゃあ、ひとつだけ聞いていい。その『ヘナ』はどこにあったの?』


これだけ答えたら静かになると思い、


「洗面所の一番上の棚にあったやん。あれを使ったの。」


、と答えた瞬間テーブルを強く叩いた。左手の薬指につけている結婚指輪が、テーブルの下に引いてあるガラスにあたり、氷が割れるような音が静寂を切り裂いた。


ユン坊が小さく唸った。(ォギャッ)


「何やってるの?あれは頭につける油じゃなくて、クレンジングの油よ!」


「ちょっと声のトーンを下げてよ。ユン坊が起きるやろ。」


私は頭にクレンジングの油を塗っていたのだ。どうりでなんか違和感があったのだが、無頓着な性格なので、たいした問題にも思えなかった。しかし若女将は違う。物事に決着をつけないと気がすまない性格である。


「言っときますけど、これ、初めてじゃないけんね! 前にも一回、私のクレンジングを頭に付けていたでしょ。も~何回言えば聞いてくれるの。適当に人の話を聞くからこうなるんでしょ。あれはこの前、間違って使ってしまったから、わざわざ私が目の届かない場所に移したのに、それをまたわざわざ捜し出して使うなんてありえない。『ヘナ』は洗面所の蛇口の横に、一番分かりやすい場所に………」


機関銃のような集中砲火を浴びた私は、反撃をする玉を持ち合わせていなかった。しかしどうにか拾った小石を投げつけようと試みた。


「クレンジングを頭に付けただけで、そこまで言われないかんと!『また、付けたの、バッカじゃない。』ち言って、笑って終わればいいやん。」


おとなしく聞いていれば更なる報復を受けずに済んだかもしれない。私も一家の大黒柱としての威厳を持ちたいと思う卑下た心が、若女将の更なる連続砲火の始まりとなった。


「もう、何歳になって頭にクレンジングなんかつけるの。人の話を真面目に聞かないから同じ間違いを繰り返すんでしょ。プッシュタイプはクレンジングだって何回も言ったじゃない。色も全然違うし、匂いも…」


もう、私はボロボロになってしまった。いつも間に入ってくれるユン坊大佐も現在、若女将によって軟禁状態である。援軍に駆け付ける足もない。食料(ミルク)が無くなると若女将に助けを求めるのだが、時間的にはまだまだ後であろう。

しばらくして若女将は洗面所に駆け付けクレンジングを隠してしまった。隠すときに問題のクレンジングを見ながら不思議そうな顔をしているのを私は見逃さなかった。恐らく、(なんかちょっと減りが早いな…) 実はこのクレンジング、今日だけではなく、数日間私の頭に付いていたのを若女将は知らない…





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最終更新日  2006年02月23日 09時43分32秒
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