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カテゴリ:やまももの創作短編
父親と8ミリカメラ撮影
内川雅人くんが中高生の傾、彼の父親の趣味は8ミリカメラでの撮影でした。なんでもかでも8ミリカメラで撮影し、現像して編集したものを映写機でスクリーンに映し出し、それを家族にほぼ強制的に見せたものです。 落語の「寝床」の商家の旦那の場合は、義太夫に凝って、それを家作の長屋の連中に半ば強制的に聞かせようとし、あまりにも下手なので迷惑がられるという噺ですが、雅人くんの父親の場合はその8ミリカメラ版といった具合でした。撮影対象としては、初めは家の近くの奈良公園や神社仏閣などを撮っていましたが、本来奈良の町の歴史に全く関心の無かった父親ですから、何の新鮮味もない平凡な映像と陳腐なナレーションに雅人くんは辟易させられたものです。 この父親の8ミリカメラ撮影に、なんと雅人くんの大学受験の様子も対象にされてしまいました。このとき、雅人くんは1年間大学受験のために仙台で浪人し、一期校受験に失敗した後、二期校を故郷の奈良市近くの大阪で受験することになり、その気持はとても憂鬱でまた非常に緊張していました。そんな彼を対象にして8ミリカメラを向ける父親に正直激しい怒りを感じたものです。父親同伴の受験なんておそらく希有のこと(現在ではどうなんでしょうね)で、それを見た他の受験生たちはよほど息子思いの父親だろうと推測したかもしれませんね。 しかし、雅人くんの父親は自分の息子には殆ど関心の無い人でした。家の外では趣味のオートバイを乗り回し、酒場で呑んだり、軟式テニスや社交ダンスを大いに楽しみ、家に居てもジャズレコドを専ら鑑賞していました。そんな父親が8ミリカメラ撮影に凝り出し、嗚呼、なんと言うことでしうか、雅人くんがその格好の対象にされてしまったのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年11月14日 16時13分40秒
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