テーマ:子どもと教育問題(292)
カテゴリ:「公教育」考
杉並区立和田中学校校長、藤原和博先生による「フィンランド調査報告(07年9月末)」を読む、シリーズです。
前の日記は↓の3本です。 和田中藤原校長の「フィンランド調査報告」を読む その1 藤原校長の「フィンランド調査報告」を読む その2 藤原校長の「フィンランド調査報告」をよむ その3 「フィンランド調査報告」を読む・・その4 今回は、「その4」の続きからです。 よたよたあひるの寄り道たっぷりコメント抜きで、 藤原校長のレポートを全文読む場合は、 フィンランド調査報告(07年9月末へどうぞ。 和田中と地域を結ぶページに掲載されているPDFファイルです。 以下、引用は、藤原和博校長の「フィンランド調査報告」 まずは、いつものとおり、<2.社会的な背景の違いについての理解>より冒頭部分と見出しです。 ---------------- 2、社会的な背景の違いについての理解 PISA調査の結果が良かったからと言って、日本がフィンランドの制度や指導法だけを真似ても、同じ結果は得られない。 その理由は、主に社会的な背景の違いに求められる。 (1)フィンランドには「徴兵制」が残っていて、ほとんどの子供(とくに男子)は軍役を機にルームシェアするかパートナーと同棲するなどして親から独立する。 (中略) (2)フィンランドの「教育改革」は国の存亡を賭けた戦いだった。 (中略) (3)日本が8位から14位に転落したと話題になった「読解リテラシー」(日本語の意味における「読解力」ではない)について、「フィンランドの教師がみな修士号を持つから」とか「フィンランドでは読書量が多いから」という表面的な理由はみな的外れだ。 (中略) (4)10段階評価で4が二つ以上あると留年することになる。 (中略) (5)ほとんどの親が5時には家に帰って家族で夕食を食べるのがフィンランドの習慣だ。 (中略) -------------------------- この文脈の中で、本日は、 <(4)10段階評価で4が二つ以上あると留年することになる。>と の項をとりあげて、コメントしていきたいと思います。 では、(4)の引用です。 -------------------------- (4)10段階評価で4が二つ以上あると留年することになる。 「留年させても落ちこぼれをつくらない」という思想なのだ。また、ついていけない子を「スモールクラス」に移して別の先生が張り付いて授業をすることも含め、フィンランドのシステムは「落ちこぼれを出さない」という意味で「平等」なのではない。 落ちこぼれが当然でるほど中身が濃いことをしておいて、落ちこぼれた子を徹底的にフォローするシステムなのである。 教員の年収レベルが15年目で小学校から高校で400万円~500万円(日本では同程度のレベルで600万円~700万円)。 尊敬されている割に給与が低いのは、夏休みが生徒同様2ヵ月半あることも。 --------------------------- フィンランドの義務教育は9年間ですが、就学前のプレスクールの段階で「幼いために就学を先に延ばす」ケースもあり、また、9年間の義務教育期間終了時に課題が残る生徒は10年生に進級することができるそうです。この10年生は、「落第」とはちょっと違うようですね。むしろ、生徒達が進路をじっくり考え、上級学校に進学したい場合に有利になるように10年生を選ぶ場合もあるようです。 信州大学 伏木先生の「北欧の少人数教育をささえる教育観」の53枚目のスライドによると、<義務教育期間中、3年生以上は7段階の評定がつく>、ということですから、藤原校長が書いておられる<10段階評価で4が二つ以上あると留年することになる>というのは、日本でいう中学校段階のことかもしれませんし、9年生の卒業時点でのことかもしれない、そのあたりがよくわかりません。義務教育期間中の「留年」・・・学年を繰り返すことはめったにない、という資料を見つけました。 ↑フィンランドは国際テストで、何故そんなに優れているのか(杉田荘治氏HPより…なかなか面白い経歴と視点の方です。視点は私とは違いますが…) めったにない、ということは、皆無ではないんですね。 もっとも、「留年」やむなしという判定に至る前に、授業についていけない子どもへの徹底的な個別フォローがあります。日本の「習熟度別クラス」なんてみみっちいものではなく、あえて比較するなら、特別支援の通級みたいなマンツーマンに近い指導でフォローしているわけです。もちろん、先生の数は、藤原校長も書いておられるとおり、日本の倍近く配置されているわけですが、しっかりした指導ができるように、時間差登校なども行なって少人数の指導体制を確保してもいるわけです。すべて一律ではなく、あくまでも子どもの力に合わせた指導を行なうということでしょう。 また、ホームスクールでの学習も認められているそうです。 ただ、就学の先延ばしや10年生進級に関して、その状態を「落ちこぼれ」と認識しない文化風土がフィンランドにはあるようですから、義務教育期間中の「留年」も場合によっては子どもの権利の一つとして認識されているかもしれません。また、同時に「子どもの学習義務」という考え方もあるようですしね。 --------------- 教員の年収レベルが15年目で小学校から高校で400万円~500万円(日本では同程度のレベルで600万円~700万円)。 尊敬されている割に給与が低いのは、夏休みが生徒同様2ヵ月半あることも。 --------------- 年収のレベルは単純に比較できません。 なにしろ、社会保障が充実していますから、現役時代の収入が低くても老後の備えのために日本ほど貯蓄する必要もないし、子どもの教育費は大学まで無料ですからね。そしてまた、フィンランドは現在でも失業率9%以上という国で、失業中でも税金や社会保障費の負担はあります。ただし、収入は失業手当である程度は保障されていますけれども。また、休暇についても、学校の先生方が生徒同様2ヵ月半の夏休みがある、というのは日本と大きく異なりますが、フィンランドでは普通の勤め人でも1ヶ月の夏季休暇はあるんですよ。 ただ、さまざまなフィンランドの視察報告をみても、あるいは、フィンランドの行政当局者の話からも、フィンランドの教師の収入は少なくはないが他の職業と比べて特別高給というわけでもない、とのことです。 また、先生方も90%以上が労働組合に参加していて、労働者としての権利を主張する窓口はしっかりあるんです。ナショナルセンターは「保守系」だそうですが、ここも、日本でいう「保守」VS「革新」の枠組みでものごとを捉えると混乱しそうです。大事なのは、「聖職」だから、あるいは「公務員だから(現在の学校教師は地方公務員)」といって、「労働者としての権利を主張するべきではない」とみなされてはいない、ということです。 フィンランドの教育についてのサイトを前の日記に集めましたので、ご参照ください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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“しょう”です。いい記事をトラックバックしていただきありがとうございました。
以前も読ませていただきましたが、なかなかの力作ですね。ワンクリック投票します。 (2009.03.03 22:19:40)
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